ルーブル美術館「初の女性館長」誕生の意外な事情 「フェミニズムの国」フランスも実は男性優位?

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一方、パリのリュクサンブール美術館では「女性画家、1780年―1830年」展(8月28日まで)が開催されている。元老院(議会上院)が管理する同美術館はテーマ性を重視しており、今回は女性の社会的地位や権利の向上と美術の関係が取り上げられている。

西洋美術史の中で女性画家の存在は、20世紀初頭にマリー・ローランサンの登場が初めてと見られがちだが、実は18世紀から19世紀初頭に実力のある女性画家が活躍していたことは、あまり知られていない。今回は女性画家の人生の苦闘を紹介している。

同展の副題には「闘いの起源」とあるように、18世紀末から登場した女性画家たちの背景にフランス大革命前夜のアンシャンレジーム期から女性画家の闘いが始まっていたという視点で展覧会は企画されている。

ナポレオン法典では、女性は男性の下の位置づけだった

アンシャンレジーム期の最後の数十年間、女性画家は前例のない注目を集めた。中でも国王ルイ16世の王妃マリー・アントワネットの肖像画家として知られるエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの存在は、女性画家たちに道を切り開いた開拓の先駆者だった。

彼女のたぐいまれな才能は男性で占められる王立美術アカデミーに衝撃を与えた。彼女は父親を早くに亡くし、母や妹を養っていくために画商と結婚し画家を続けた。革命後、王党派と見られ国外に脱出し、ナポレオン皇帝時代に皇帝の家族を描く画家としてフランスに戻り、画家として86歳の生涯を閉じている。

ナポレオンが制定したナポレオン法典には、女性は男性の下に位置付けられていた。宗教的制約で女性の描けるジャンルも限られていた。そんな時代に女性というハンディに加え、革命の嵐に巻き込まれながら画業を続けた女性画家たちが悪戦苦闘しながら優れた作品を残しながらも、女性画家として光が当てられることはなかった。

実はフランスは、フェミニズムの国といわれながら、欧州内では北欧に比べ、女性リーダーは少ない。

マクロン政権で17人の閣僚中、8人が女性で占められているが、女性が多く登用されるようになったのは2007年に発足したサルコジ政権以降のことだ。しかし、ラガルド欧州中央銀行総裁のような国際機関でトップを務める女性も増えており、女性リーダーが増えていく流れは加速しそうだ。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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