JR3社の業績は底堅いが、リニアや非運輸などの設備投資負担が重く財務改善ペースは緩やかに《スタンダード&プアーズの業界展望》
アナリスト 柴田宏樹
東日本旅客鉄道(AA−/安定的/--)、東海旅客鉄道(格付けなし)、西日本旅客鉄道(格付けなし)のJR主要3社の業績は、今年に入って運輸事業の需要が持ち直しているほか、コスト削減が進み、徐々に回復に向かいつつある。ショッピングセンターの運営や駅構内における小売業、ビル再開発を手掛ける非運輸事業は比較的安定した収益を確保できる見通しで、今2011年3月期は、景気悪化の影響で2期連続の減収減益だった前10年3月期から回復すると考えている。
ただし、鉄道需要の回復基調は緩やかであるため、営業利益が08年3月期程度の水準まで回復するには、JR東日本では同社の数値目標である13年3月期ごろまでかかると、スタンダード&プアーズはみている。他の2社でもおおむね同程度の時間がかかる見通しである。
今後数年、JR3社とも将来の成長事業を中心に設備投資負担が続く計画であるため、営業キャッシュフローの配分では、過去数年と比べ、有利子負債の削減が限定的となる見通しである。安定した当期利益の積み上げによる株主資本の増加は進みそうだが、今後数年、資本・負債構成の改善ペースは鈍化するとみている。当面、設備投資負担により財務の改善ペースは緩やかになるだろう、とスタンダード&プアーズは考えている。
業績は底堅いが、回復ペースは当面緩やか
10年3月期では、JR東日本の運輸事業は全体の売り上げの68%、営業利益の66%を占めていて、非運輸事業との収益面でのバランスはとれている。JR東海と比べると、景気悪化の影響を受けやすい新幹線事業の比率が30%弱と低く、連結ベースの営業利益率は13.4%(前の期から2.6ポイント低下)だが、非運輸事業が底堅いため、業績の安定性は高い。