中国が台湾に武力行使をしない3つの理由 「台湾有事が近い」とは中国側の論理から読み取れない
なぜか。その理由について、かつての最高実力者、鄧小平氏は1978年10月に来日した際、当時の福田赳夫首相との会談で「われわれが武力を使わないと請け負えば、かえって台湾の平和統一の障害となる。そんなことをすれば、台湾は怖いものなしで、シッポを1万尺まではねあげる」と語った。武力行使を否定すれば、台湾独立勢力を喜ばせ、統一が遠のくという論理だ。
中国は台湾問題を「核心利益」と見なし、「妥協や取引はしない」という強硬姿勢を貫いている。その理由についても、やはり鄧小平は1981年1月にアメリカの友人との会談で、アメリカがソ連に強硬な政策をとれば、台湾問題で中国は我慢できるだろうかという問いに「我慢できない。台湾問題によって中米関係の後退まで迫られても、中国は我慢するはずがない。必ず然るべき対応を取る」と述べた。アメリカの台湾介入に対し、台湾海峡で強硬な軍事的対応をとり、武力行使を否定しない論理は、40年前とまったく変わっていないことがわかる。
台湾統一の優先順位は高くない
だからといって、中国は客観的条件や環境を一切無視して、台湾統一を実現しようとしているわけではない。そこで台湾統一が、中国の戦略目標の中でどんな位置を占めているかをみよう。歴代リーダーは共産党の戦略目標を「3大任務」として発表してきた。
鄧小平は1979年に、①近代化建設②中米関係正常化③祖国統一。江沢民は2001年に、①近代化推進②祖国統一③世界平和維持と共通発展促進を3大任務として挙げた。そして習近平は2017年の第19回共産党大会で①平和的な国際環境作り②四つの近代化③祖国統一を挙げている。
戦略目標のプライオリティーは「近代化建設」と、それを実現するための「平和的環境」作りであり、台湾統一の優先順位は決して高くないことがわかるだろう。中国共産党の思考方法である「⾧期目標に向けた戦略的思考」であり、「大局観」と言ってもよい。
では習近平は、在任中に台湾統一を実現する目標を立てているのか。習は2019年1月、彼の台湾政策「習5点」を発表した。その特徴を挙げれば、平和統一を実現する宣言書であり、統一を「中華民族の偉大な復興」とリンクさせ、論理的には2049年(建国100年)以前に統一を実現する必要がある、台湾との融合発展を深化し平和統一の基礎にする、台湾独立による分裂と外部の干渉勢力に向け「武力使用の放棄はしない」、などである。
統一への時間表は明示してはいないが、戦略目標とリンクさせたことで論理的には2049年以前には統一を実現していなければならないことがわかる。同時に「台湾との融合発展を深化し、平和統一の基礎にする」から判断すれば、統一を急いでいるわけではなく、「息の長い」政策と言えるだろう。
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