「君の仕事はお茶入れじゃない」その一言が必要だ 女性への「無意識の偏見」を知り、行動変容へ

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次に知っておくべきなのは家庭や社会の歴史だろう。かつての日本では、男性が外で働き、女性は家庭を守る、性別役割分担システムが広範に根付いていた。それが効率的な経済発展に役立つから税制も主婦を優遇した。私自身、多忙な会社員の父と専業主婦の母という家庭で育ったから、システムの恩恵を受けたと言える。 

ただし、今、2人の子どもを育てながら私が歩んでいるのは、母と父の人生を混ぜ足したような人生だ。子育てしながら男性と同じような仕事をして稼いできた。

夫婦共働きが主流の現在、家庭内の仕事を女性だけが抱え込んでいたら、職場で責任ある仕事を引き受けて、リーダーシップをとるのは難しい。男性も家事や育児を「お手伝い」ではなく、「自分の責任」として担う必要がある。これは日本が抱えるジェンダー・ギャップの中でも大きな課題だ。

日本では、6歳未満の子どもを持つ夫は、共働きでも76.7%の夫が家事をしておらず、69%の夫が育児をしていない。国際比較でも日本男性の家事育児参加の少なさは際立つ。6歳未満の子どもを持つ人を見ると、米英独仏など先進国で家事育児をするのは、女性が5~6時間なのに対して、男性は半分の時間を費している。一方、日本は女性が7時間半、男性が1時間半弱と、ジェンダー間の格差が大きい(「令和2年版 男女共同参画白書」より)。

仮に職場での性差別がなくなったとしても、家事育児などの無償ケア労働の差が大きいままでは、女性リーダーを増やすのは難しい。男性も家事育児を担える働き方になること、つまり家庭内のジェンダー平等を目指す必要がある。

男性上司や先輩、夫の意識を変えるべき

最後にひとつ実践可能なエピソードをお伝えしておく。

1997年のちょうど今ごろ、新入社員だった私は、職場で来客にお茶を入れた。すると、3~4歳上の先輩に呼ばれて注意を受けた。お茶がまずかったからではない。

「君の仕事はお茶入れじゃないから。給料が高いから、もっと頭を使って仕事して。おもしろい雑誌を作るのが君の仕事」

当時この先輩は「ジェンダー」という言葉を知らなかったと思う。それでも彼の言葉はジェンダー中立だった。このとき、私は自分の仕事がいったい何なのか、肌で理解した。「やっぱり女の子の入れたお茶は美味しいなあ」と言われていたら、私は今こういう仕事をしていなかっただろう。

つまり、上司や先輩、そして夫たちの意識と行動変容こそがカギなのだ。

『週刊東洋経済』6月12日号の特集は「これが世界のビジネス常識 会社とジェンダー」です。東洋経済では、あなたの身の回りのジェンダー問題についての情報提供を募集しております。「会社でこんな女性差別的待遇を受けた」「男性育休を推奨しているが、休業中にも業務メールが絶えない」など、お心当たりのある方は、以下の投稿フォームまでご意見をお寄せください。https://form.toyokeizai.net/enquete/tko2104b/

 

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治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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