FRBのノイズになるイエレン財務長官の言動 前議長の隠然たる影響力、避けたい「院政」状態

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

FRBがテーパリングに慎重な理由は、その際にインフレ期待や市中金利が先回りして急騰し、資産価格や実体経済が唐突な調整を強いられる懸念があるためだ。それゆえ、イエレン長官が冒頭のような発言をして市中金利が跳ねたり、株価が動揺したりすれば、余計にFRBは市場に漂うテーパリング観測から距離を取る必要が出てくる。イエレン長官が口にした、ちょっとした金利観のような情報発信も含めて正常化プロセスは慎重に進めたいというのがFRBの本音のはずであり、今回のようなことが続くことは愉快ではないだろう。

もちろん、実質GDP成長率が5.0~6.0%というのはアメリカの潜在成長率の倍に相当するハイペースであるため、イエレン長官の言うように、金利上昇は当然の話に思える。ただ、同じことを一介の民間エコノミストが言ってもおそらく反応は薄い。前議長で現役財務長官のイエレン氏が説得力のあることを述べれば、「やはりそうか」と相場は動くのである。それ自体が政策運営のノイズになる現実がある。

パウエル議長やクラリダ副議長は火消しに躍起

もとよりFRBにはカプラン・ダラス連銀総裁のように断続的にテーパリングの必要性を説く高官もおり、それをパウエル議長やクラリダ副議長が火消しするような構図が日常的に見られている。市場の信頼の厚いイエレン氏がテーパリング賛成派としてこうした議論に加わるような格好は避けたほうが無難であろう(もちろん、当人は加わったつもりはないのかもしれないが)。

実体経済に対する印象論ならまだしも、金利情勢は各所に影響が波及するデリケートな代物だけに、FRBの下でワンボイス化したほうが市場参加者にとってもわかりやすいのは間違いない。財務長官に大物を起用したがゆえの副作用であり、放っておけば「院政」と揶揄されるような状況になってしまう。今後正常化プロセスを着手するにあたってはうまく交通整理をする必要がある。

いずれにせよ、こうした騒動を経たうえで迎える6月FOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見、スタッフ経済見通し(SEP)、メンバーの政策金利見通し(ドットチャート)は否応なしに注目が高まることになった。
 

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事