ミャンマー政策、問われる「積極的関与」の内実 邦人殺害後も国軍向け援助継続の日本政府

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

設問は、「そう思う」としか答えようのない、我田引水そのものだが、日本政府の自己認識はよくわかる。

一連の声明への不参加は、大使館レベルとはいえ、まさに「欧米とは異なるやり方」を地で行くものだが、問題は「独自パイプを活用しつつ、積極的に関与」しているのかどうかだ。

日本政府はミャンマーに対し、有償無償を含めて巨額の援助をしてきた。延滞債務も免除し、日本国民の資金が累計2兆円近く支出されている。そこまでして培った「独自のパイプ」だが、クーデター後の事態鎮静化や国軍の暴力停止に役立っていないだけではなく、外務省の最も重要な業務であるはずの邦人保護にも生かされていない。

生かされなかった「独自のパイプ」

17カ国による共同声明が出された5月3日、ヤンゴン在住の日本人ジャーナリスト、北角裕樹さんが虚偽のニュースを広めた罪と入国管理法違反罪で起訴された。

北角さんは4月18日、ヤンゴンの自宅から連行され、苛烈な待遇で悪名高いインセイン刑務所に収容された。抗議デモを取材中の2月にも一時拘束され、間もなく釈放された後もSNSなどを通じてデモに関する情報を発信していた。国軍にとって不都合な情報が「虚偽」と認定されたとみられる。

【2021年5月8日21時48分追記】初出時の記事で、北角さんの一時拘束時期を3月としておりましたが、表記のように修正いたします。

国際的な基準に照らして正当な拘束理由でないことは明らかだ。国軍がクーデター後に改定した刑法によれば、虚偽のニュース流布は禁錮3年、入国管理法違反は同5年が最高刑とされる。日本政府は北角さんの釈放を求めているが、大使館員は面会さえできていないという。

ミャンマー国軍は以前から多数のジャーナリストを殺害、拘束、拷問してきた。2007年9月には、ヤンゴンで軍事政権に反対する僧侶らのデモを取材中のフリージャーナリスト、長井健司さんが国軍兵士に射殺された。至近距離から発砲された瞬間を映した鮮明な映像が残っており、射殺犯の姿もはっきりとらえられている。

日本政府は真相の解明と、長井さんが撃たれたときに握っていたビデオカメラの返還を当時の軍事政権に求めたが、「数十メートル先で発射された流れ弾による事故」という現場の状況とは明らかに異なる説明を受けただけで、謝罪も遺品の返還もされないまま今日に至っている。このときも「独自のパイプ」は機能しなかったのか、そもそも機能させる気がなかったのか。

次ページ日本政府は足元を見られている
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事