しのぎを削ってきた国内自動車メーカー同士が手を組んだ。それも一部ではなく、すべての自動車メーカーだ。トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなど国内乗用車メーカー8社と一般財団法人自動車研究所は4月、共同でエンジンの基礎研究に取り組む組織「自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)」を立ち上げた(関連記事
「エンジン開発で結束、国内メーカーの危機感」)。
大学や学術機関と連携し、燃焼などの物理現象の解析や評価手法の開発といった、エンジンに関する基礎的な研究開発に共同で取り組む。まずは日本メーカーが出遅れているディーゼルエンジンの排ガス処理の研究に着手し、内燃機関の熱効率向上を目指す基盤研究も行う。全メーカーが足並みを揃えて共同研究に取り組むのは異例のこと。その背景にどんな危機感があるのか。AICEの大津啓司理事長(本田技術研究所常務執行役員)に聞いた。
――なぜ、今このタイミングで共同組織を立ち上げたのか。
このままではエンジン開発でドイツを中心とする欧州系に遅れを取ってしまうという危機意識からだ。現時点では日本勢もエンジンの技術力で負けてはいない。だが、大学を中心とする基礎研究の立ち後れや、若手人材の不足が深刻になっており、日本ではエンジン開発の基盤が弱体化している。
今、何もしなければ、10年後には負けてしまうだろう。われわれが目指すのは、ドイツの自動車産業が学術機関とともに築いてきたような、エンジンの基盤技術研究のプラットフォームを作ることだ。
ドイツと日本の大きな違い
――具体的な連携のイメージは。
例えば、エンジン開発の代表的な共同研究団体であるドイツのFVVは、自動車メーカーから部品メーカー、研究開発受託会社など140社以上が参加している。大学などから研究テーマを募集したうえで、会員企業の賦課金と行政からの資金で、大学に研究を委託する。研究結果は業界に還元され、製品に生かされる。
大学はFVVからの資金で研究体制を強化できるうえ、研究を通じて学生は論文を書き、学位も取得できる。そうした学生が自動車メーカーなど関連企業に就職し、中核的な人材として活躍している。また、研究開発会社は大学との密接な関係を築き、最先端の技術力を蓄えている。ドイツを始めとして、欧州の自動車業界では、こうした産学を結んだ研究開発体制と人材育成のサイクルが機能し、競争力を支えている。
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