認知症リスクが3割高まる危険な「睡眠時間」 最新研究で判明した睡眠不足が招くリスク
ただ、睡眠不足が認知症、とりわけアルツハイマー病のリスクを高める可能性については、科学的に説得力のある理論が提示されている。脳に沈着してアルツハイマー病を引き起こすアミロイドと呼ばれるタンパク質の脳脊髄液中の濃度は「睡眠不足になると上昇する」ことが各種研究で明らかになっている、とミューシック氏は話す。
同氏によると、アルツハイマー病との関連が指摘されるアミロイドとタウ・タンパク質に関する別の研究も「これらのタンパク質を脳から除去したり、生成を抑えたりするのに睡眠が重要な役割を果たしている」ことを示唆しているという。
起きている時間が長ければ、ニューロンの活動時間も長くなり、それだけ多くのアミロイドが生成されるのではないかというのが1つの説だ。睡眠中に脳を流れる液体が過剰なタンパク質を洗い流す役割を担っており、睡眠が不足すると脳に沈着するタンパク質の量が増えるという説もある。過剰なタンパク質を除去するには、特定のフェーズの睡眠が十分な時間確保されることが重要なのではないかと考える研究者もいる。
ラッツィー氏によれば、睡眠不足が認知症リスクを間接的に高めている可能性もある。ラッツィー氏が言う。
「夜遅くまで起きていて夜食を食べている人、あるいは睡眠不足がひどくて何もやる気が起こらず、体をあまり動かそうとしない人を思い浮かべてもらいたい。そうなると肥満になって糖尿病や高血圧といった基礎疾患を抱え込む傾向が強まる。これらの危険因子と認知症リスクとの間にはかなり明白な関連性がある」
睡眠不足を解消するにはどうしたら
睡眠不足が認知症の原因なのだとしたら、私たちはどうやって睡眠を改善したらよいのだろうか。
「一般に睡眠導入剤などでは思ったほど深い眠りは得られない。しかし、本当に必要なのは深い眠りだ」とヤッフェ氏は言う。「深い眠りの間に(認知症の原因となる脳内の)老廃物が洗い流され、回復効果が高まるとみられるためだ」。
昼寝で睡眠不足を補うことはできるが、夜にぐっすり眠れていれば昼寝は不要になるはずだとも言う。睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群を抱えている人は専門家に相談するべきだ、とヤッフェ氏はアドバイスする。
そうした問題のない人は、規則正しい睡眠を心がけ、就寝前にはカフェインやアルコールを避け、寝室にはスマートフォンやパソコンを置かないようにするといったことがアメリカ疾病対策センターの「睡眠衛生」ガイドラインとして紹介されているので参考にしてもらいたい、とラッツィー氏。
とはいえ、睡眠は今も多くの謎に包まれている。ミューシック氏によれば、今回の研究では「中年期の睡眠の重要性について強力なエビデンス(証拠)が示された。ただ、睡眠と認知症の関連性における実際のメカニズムや、それをどう対策につなげていくかなど、解明しなければならないことはまだたくさん残っている」。
(執筆:Pam Belluck記者)
(C)2021 The New York Times News Services
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