認知症リスクが3割高まる危険な「睡眠時間」 最新研究で判明した睡眠不足が招くリスク

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「今回の研究は(鶏と卵の議論に)必ずしも決着をつけるものではないが、比較的若い人々を対象にした大規模調査だったため、最終的な結論にかなり近づいた」とミューシック氏。「観察対象となった中年の人々の脳内では、まだ認知症の病理学的変化が始まっていなかったと考えるのが妥当だ」。

今回の研究は、1980年代半ばからイギリスの公務員を対象に行われてきた有名な大規模調査「第2期ホワイトホール研究」のデータを用いている。1985〜2016年に睡眠時間を6回申告した7959人を追跡したもので、うち521人が調査終了までに平均77歳で認知症と診断されていた。

寝不足だらけの社会に投げかける意味

論文執筆者の1人でもあるフランス国立保健医学研究所の疫学者セヴリーヌ・サビア氏によると、研究者チームは睡眠パターンや認知症リスクを左右するとみられる各種要素の影響を排除した分析に成功したという。具体的には、喫煙、飲酒、身体的活動レベル、肥満指数(BMI)、果物と野菜の摂取量、教育水準、配偶者の有無、高血圧、糖尿病、心疾患といった基礎疾患の影響だ。

「今回の研究では睡眠不足と認知症リスクとの間に中程度の関連性が見いだされたにすぎないが、私に言わせれば、これはかなり重大な発見だ」とミネソタ大学のパメラ・ラッツィー准教授(疫学、公衆衛生学)は話す。同准教授も今回の研究には関与していない。

「睡眠不足に陥っている人はとても多い。ということは、認知症リスクとの関連性がたとえ中程度であっても社会的には甚大な影響がある。それに睡眠不足は人々が自分で改善できる問題でもある」

ただし、睡眠不足が認知症につながるとまだ証明されたわけではない。例えば、専門家が指摘する研究の弱点には、睡眠に関するデータの多くが自己申告だという制約がある。主観が入るため、データが常に正確であるとは限らないということだ。

「この種の研究からどのような結論を導き出すかの判断は、いつだって難しい」。『ネイチャーコミュニケーションズ』には今回の研究について数人の専門家がコメントを寄せているが、そのうちの1人、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのロバート・ハワード教授(老年精神医学)はこう書いた。

「不眠症の人々にとって、ベッドに入ってからの心配事が増えるのはよくないだろう。すぐに眠りに落ちることができなければ認知症まっしぐらだと心配するべきではない」

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