「福知山線脱線事故」16年後の「経営効率と安全」 「民営化後最大の赤字」に苦しむJR西日本の現在

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4月14日、大阪・梅田のJR西日本本社で定例記者会見に臨む長谷川一明社長(撮影:松本創)
運転士を含む死者107人、負傷者562人を出した2005年の福知山線脱線事故から今日で16年を迎えた。「事故を心に刻み、風化させない」「安全最優先の組織風土に」と唱えるJR西日本はしかし、新型コロナ禍により、未曽有の経営危機に見舞われている。反省と教訓は生かされているのか。遺族の願う「事故の社会化」は進んでいるのか。
このたび新潮文庫から刊行された『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』の著者・松本創氏が、JR史上最悪の事故を起こした加害企業の今をレポートする。

コロナ禍で苦境にあえぐJR西日本

淡々と数字を読み上げ、短くコメントする言葉に、未曽有の苦境と先の見えない焦りがにじんでいた。4月14日、大阪・梅田のJR西日本本社で行われた長谷川一明社長の定例会見。いつものように冒頭で、直近の営業・輸送概況が発表された。

今年3月の利用状況は、新型コロナ禍前の前々年比で山陽新幹線42%、北陸新幹線40%、在来線特急35%、近畿圏在来線72%。2月以降、緩やかな回復傾向にあったというが、大阪圏の感染急拡大で、また減少へと転じた。

「昨年秋に2021年3月末の業績予想を発表した時点では、ワクチン接種が進み、山陽新幹線で6割程度まで回復することを見込んでいたが、残念ながらそのレベルには及んでいない」

ワクチン接種が進んでいるはずだという楽観的な予想でも、21年度の最終赤字は民営化後最大の2400億円まで膨らむと同社は見込んでいた。同時期の業績予想でJR東日本は4500億円、JR東海は2340億円の赤字を見込んでいるが、同じJR本州3社であっても経営規模や体力はまったく異なり、JR西は他の2社とは比べ物にならないほど厳しい、と同社関係者は言う。

「JR東の経営規模はうちの2倍。首都圏を抱え、乗客数も保有資産も桁違いです。東海には東海道新幹線という大黒柱があり、社員数もうちより少ない。結局、ローカル線区が多く、それゆえ人手も必要になるという、民営化当初からの構造的問題が大きく影響しています。山陽新幹線と京阪神都市部の収益で地方路線を支えるというモデルが、コロナで立ち行かなくなってしまった。

うちは今、仕事の減った乗務員や駅員、本社の間接部門を中心に1日1300人規模の一時帰休を行っていますが、他社はそこまでやっていません。休んだ分の賃金は、国の雇用調整助成金が特例的に支給され、今のところ補償されている、つまり税金で穴埋めされる形になっていますが、これもまもなく期限が切れる。給料カットや人員整理を心配する声が社内では渦巻いています」

コロナ禍が始まった昨春以来、私も同様の話をいくつも聞いている。先月下旬、新たに文庫版が刊行された『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』には、JR西のコストカット策──新幹線や在来線の本数削減、役員報酬カット、新規採用の大幅減、ベア見送り、赤字ローカル線の廃止検討など──を列挙したうえで、こんな声を記した。

「ひどい時は、通勤時間帯の乗車率が3割ほどのこともあった。働き方が大きく変わっていくと考えれば、コロナ前の7割も戻ればいい方じゃないか」

「阪神・淡路大震災、福知山線事故に続く三度目、その中でも最大の危機。回復が見えないのが痛い。20年後の人口減少社会が、いきなりやってきたようだ」

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