生活保護を「親族にバラされる」扶養照会の残酷

家族を壊し、「助けて」と言えなくする

著者が申請同行した人で、家族とは連絡を取り合ってはいるものの、非常に根深い問題を抱えている人がいた。「扶養照会をされるくらいなら死ぬ」というこの方には、通院している精神科医が「家族に知られることが当事者の自立を著しく妨げる」と意見書を書いてくださったことで扶養照会は回避できた。こういった事例もあるので、該当する人には参考にしてもらいたい。

声を上げることは決して無駄ではない

時代とともに家族形態は変わり、多くの人々が親族を養うほどの経済力をも失っている。誰もかれもが生きるのに精いっぱいの中、生活保護申請に伴う「扶養照会」は、とっくに百害あって一利なしの遺物になりはてていた。時代に合わない。機能していない。それでも改革が難しいのが国のルール。それを、長引くコロナ禍で生活困窮者が激増する中で、このままではマズイと本気で憂う人があちこちに現れた。

足立区区議である小椋修平氏が、本会議代表質問で足立区の扶養照会数とその実績を質したのが2020年6月。回答結果が照会数2275件中、実績が7件(0.3%)と聞いて、やっぱりと思う一方で、そこまで無意味なことを福祉事務所は疑問も持たずに時間と、労力と、税金をかけてやってきたのかと愕然とした。絶対になくしたい。なくさないとダメでしょうと決意を固めた。

「つくろい東京ファンド」のHPから入手することができる<扶養照会に関する申出書>(写真:週刊女性PRIME)

そこで「つくろい東京ファンド」で扶養照会の弊害をデータにすることで可視化させ、メディアが取り上げ、国会議員のみなさんが真剣に耳を傾けてくれ、扶養照会問題は国会に響いた。法律家も、福祉関係者も、それから自治体議員のみなさんも、みんなが知恵を結集させた結果、山はじりじりと動き始めた。いや、動いてはいないかもしれない。山はどっしりとそこにあるままだ。しかし、みんながスコップやシャベルを持ち寄って山を掘り始め、大きな山にトンネルをつくろうとしている。

時を同じくして、厚労省がホームページに「生活保護の申請は国民の権利」と広報を出した。このメッセージは国民の生活保護に対する誤解を解くだけでなく、うそで申請希望者を追い返すなどのひどい対応をする福祉事務所職員を牽制する意味もあったと、その文言から感じる。

厚労省や福祉事務所の職員たちにもトンネル堀りに参加してほしい。そして、生活に行き詰まってしまった人の道を拓くことに力を注いでほしいと切に願う。

たくさんの人が力を結集させて、扶養照会のルールが変わり始めている。しかし、この変化に最も大きな影響をもたらしたのは、まぎれもなく当事者の体験談だったと私は確信している。アンケートに答えてくださった大勢の人たち、そして、150人もの方々が、つらい、苦しい体験を寄せてくださった。その悲痛な体験が、言葉が、国を動かした。私はそう思っている。

声を上げることは決して無駄ではない。

小林美穂子(こばやし・みほこ)/1968年生まれ、「一般社団法人つくろい東京ファンド」のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター(女将)。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)を出版。
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