YOASOBIが巻き起こす「メディア越境」の意味 放送作家・鈴木おさむさんが見た業界激変
「いい曲を連続リリースできるのは、いきなり出てきたわけじゃなくて、才能とアイデア貯金があるからこそ。YOASOBIが売れたことによって、ボカロPの人たちの結界を破ったと思います。
アニソンが日本の音楽のセンターになったような現象が、今後ボカロ界隈にも起こるでしょう。ネットで自由に音楽を作って発表してきた人が、どんどん見つかってマネタイズされていくはず。これまでは、ボカロはどんなにヒットしても『異色のもの』として扱われていましたが、米津玄師さんも国民的ヒットを連発しましたし、これからもっと増えてくるでしょう。一過性のブームではなく、ひとつの時代になりそうです」(鈴木氏)
なぜ絵本なのか
鈴木氏は2021年2月、絵本『ハルカと月の王子さま』を上梓した。物語の主人公は、10代の女性・遥が雑貨屋で購入した、マグカップだ。遥の初恋から受験、そして結婚出産や悲しい出来事を、マグカップの視点から描いている。
「YOASOBIの楽曲になるならば、男女の友情を描きたかったんです。人と人だと普通だから、モノ(マグカップ)を主人公にしようと思って、そこから物語を作りました。絵本にしては文字数も多いし、『絵本』というだけで手に取らない人が増えてしまうのはもったいないと考え、イラスト小説というパッケージにしたんです。10代のYOASOBIファンが、お母さんにプレゼントするような作品になったらいいなと思って」(鈴木氏)
楽曲制作過程において、物語についてYOASOBIの2人と話すことはなかったという。
「僕が小説を書いて、それを読んだAyaseさんが曲を作るという企画なので、完成するまでほとんどやりとりはしていなかったです。ただ、『素晴らしかったです、泣きました』と連絡があったので、作りがいがありましたね。楽曲の構成が小説に似ていたので、本当にすごいなと」(鈴木氏)
物語の中では、マグカップが幼いころからずっと一緒に生活してきた遥が大人になり、そこで流産というつらい経験をすることも描かれている。イラスト小説ながら、これだけ重いテーマを扱ったのはなぜなのだろうか。
「キャッチコピーは『お母さんだって、傷ついたことがある』にしました。僕たち夫婦も赤ちゃんが残念なことになるを経験していますが、本当にこれまでの人生で最も悲しい出来事だった。人の人生を描くときに、自分ごととして悲しいエピソードを盛り込みたかったんです。流産って、意外と確率も高いし『まさか自分が』と、誰しもが思うことだと思って」(鈴木氏)
無料会員登録はこちら
ログインはこちら