樋渡 それまで、かっこいい大人はいなかった。だって、みんな自虐史観で「ここには何もない」ばっかり。僕もそれに毒されていたわけですよ。そのとき町長に、僕は手を挙げて聞いたんです。「僕は友達がいません、協調性もありません、集団行動は苦手です。こんな僕にでも、その仕事はできますか」と。周りはみんな大笑いですよ。そうしたら町長は「だからできるんだよ」と肯定してくれるんです。
成毛 立派な人ですね。
樋渡 そうなんです。そしてこの仕事をクミチョウと言うんだと教えてくれた。
成毛 組長(笑)
樋渡 ホントは首長(クビチョウ)なんですけどね。で、そのときその町長は60歳だった。そこで僕の逆算人生が始まったんです。60歳で市長になるのがゴール。それまでに、長男なのである程度でここに帰ってくる前に役所に入っておく、それ以前の大学はなるべく安いところにということを、瞬時に決めました。そういう嫌みな人生を送ろうと思ったんだけど、僕はだまされちゃって。
成毛 2006年に初当選したとき全国で最年少の市長でしたよね。
樋渡 35歳の時ですね。市長選が無投票になるから帰ってこいと言われて、それに乗っちゃったわけですよ。そうしたら、僕が立候補表明した1週間後に、現職も立候補を表明して、話が違うじゃないかと(笑)
成毛 選挙は現職が圧倒的に有利ですよね。
風向きが変わって市長に当選
樋渡 そうですよ。集会を開いても10人ぐらいしか来ないわけですよ。半分、僕の親戚ですもんね。そのうち、その親戚まで来なくなっちゃって、大丈夫かなと。塩をまかれたり、花が送られてきたと思ったら白い菊だったりとか、散々でした。でも、ある局面で風向きがまったく変わったんですよ。投票日は4月16日でしたが、3月、春になった瞬間にパタッと変わった。
成毛 なんで変わったんですか。
樋渡 わからないです。でも、突然、景色が変わった。僕、そればっかりなんですよ。不連続人生なんです。無理やりな人生でもあるんですけど。
成毛 図書館も、変な意味でなく、無理やり作りましたよね。作ってみて、どういう反応が得られていますか。
樋渡 iPhoneと一緒です。iPhoneが出たとき、みんな「これを待っていた」と言いましたよね。待っていたことには、iPhoneを見て気がついた。
成毛 それは、武雄市図書館に来ている人を見ても感じますね。みんな、おしゃれしているじゃないですか。きっとおしゃれして出掛ける場所が欲しかったんだと思うんですよ。これまでおしゃれじゃなかったとしたら、おしゃれして行く場所がなかった。
樋渡 最初は、ジャージ姿のおじさんもいたんですよ。でも、今はすごいおしゃれになってる。近隣では衣料品の売上げが伸びています。
成毛 なるほど、なるほど。武雄市の外からもたくさん来てますでしょ。さっき駐車場を見ましたけど、県外ナンバーも多い。この地域全体の、知の上澄みをすくい取っている施設という感じもします。
樋渡 そうです。こういう動きが、ほかの地方にも広がっていけばいいなと思っています。そうすれば、日本はもっと地方から豊かになります。
成毛 言えてますね。東京はころころ変わるけど、地方は変わってこなかった。だから、地方が変わるっていうのは、変わる余地が大きいということなんですよね。
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