NHK受信料値下げ法案、異例の「廃案」のわけ 違法接待問題の余波、狙いは野党の追及封じか

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菅首相は2020年9月の政権発足以来、デジタル庁創設や携帯電話料金値下げとともに、NHK受信料値下げも公約に掲げていた。これを受けてNHKは2020年10月に月額35~60円の値下げに踏み切ったが、菅首相は1月18日の施政方針演説で「月額で1割を超える思い切った受信料の引き下げにつなげます」と明言した。

さらなる値下げについて、NHKの前田晃伸会長は「(受信料を)下げたいのはやまやまだが、下げられる環境を早く整えるべきだ」とし、BS(衛星放送)のチャンネル削減先行などを理由に慎重姿勢を示していた。

これに対し、武田総務相はコロナでの家計負担軽減のためにも「早期に(値下げを)やらずにいつやるのか」と不満を表明。菅首相の意向も踏まえて、2021年2月に今回の放送法改正案を閣議決定した。

放送各社は問題を「静観」

ただ、菅首相も長男が絡んだ違法接待問題の発覚で、「天領」とされていた総務省への指導力が低下。コロナ感染の第4波襲来に加え、身内の問題での追及が続けば、衆院選を控えて内閣支持率の低下にもつながりかねない。このため、「早々に『廃案』を決めることで、野党の追及封じを狙った」(閣僚経験者)との見方が広がる。

一連の外資規制違反問題は、NHKや民放キー局にとっても「他人事ではない」(民放幹部)。同問題での放送各社の報道はおしなべて控えめで、放送法改正案をめぐる今回の政府与党の対応も「今のところ静観の構え」(同)だ。

ただ、「法案の出し直しとなると、会期の短い秋の特別国会などでは審議時間が足りない」(自民国対)との指摘もある。さらに、自民総裁選や衆院選の敗北で菅首相が退陣に追い込まれた場合、「NHK受信料値下げでの政府の対応が変わる可能性」(総務省幹部)も否定できない。

菅首相は13日に、与党内の懸念を無視する形で東京電力福島第1原発の処理水放出を決断したばかり。「決める政治」をアピールする菅首相が、持論のNHK受信料の早期値下げで腰砕けとなれば、国民の失望を招くことは避けられない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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