コロナ禍を理由に留学させない日本の大学

文科省“依頼"への忖度が学生の機会をゆがめる

相手国が受け入れると言っているのに、日本の大学側が勉学の意欲あふれる学生を出さないのは慎重すぎるにもほどがあるのではないか。とはいえ、大学側が慎重になってしまう要因があるにはある。それは、文部科学省の指示があるためだ。

文科省高等教育局は2021年3月31日付け、「各国公私立大学、各国公私立高等専門学校宛て事務連絡『新型コロナウイルス感染症に関する日本人留学生及び外国人留学生等への情報提供及び学生の学修機会の確保について』(依頼)」なるものを出している。これによれば、外務省が各国・地域に「危険情報レベル」を出していることを指摘し、学生の海外留学など「新たな渡航については慎重に検討する」よう求めている。

私費による留学は野放しのまま

こうした文科省の方針ゆえに、大学側が派遣留学の実施に二の足を踏んでいるのではないかと考えられる。こうした派遣留学の中止は、各地の大学で多発している。大学側も、文科省からこのような文書を受け取ったら、大学としてはそれに従ったほうが無難だと判断してしまうのも無理はない。すでに決定した派遣留学も、リスク管理を理由にすべて中止してしまったほうが、文科省との関係上、得策でもある。もちろん、文科省は留学を断念させる趣旨ではないと言い訳をするはずだ。

とはいえ、一方で、大学の制度とは別の、個人による私費留学は行われている。この学生の知り合いも、まもなく私費留学としてアメリカに渡航し、大学院に入学するという。いってみれば、私費留学ができるほどの富裕層や余裕のある子弟は海外に出るチャンスがあるが、そうではなく、しかも大学のお墨付きを得た学生は留学の断念を余儀なくされるということだ。これも一つの格差の問題だ。

文科省は、「将来の日本を支えるグローバル人材の育成」をうたう(「トビタテ!留学JAPAN」キャンペーンの萩生田大臣のメッセージ)。留学をさせまいという過度の引け腰は、これと明らかに矛盾する。新型コロナウイルスの感染者数は依然として減少せず、同時に変異ウイルスが出現するなど、懸念材料は確かに多い。しかし同時に、「ウィズ・コロナ」と言われるほど現状が「日常」となっている中で、一律に出国させないという判断は正しいのか。また、徐々にではあるが、世界ではワクチンの接種も進んでいる。

この男子学生がフランスへの派遣留学に行ける唯一の道は、あと2か月のうちに、外務省が定めるフランスの「危険情報レベル」が「レベル3」から「レベル1」に緩和されることだ。しかしコロナ抑制の優等生、台湾ですら「レベル2」とされている。絶望的だ。この学生は現在、海外留学をあきらめて、就職活動を始めようかどうか悩んでいる。
 

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