地味にすごい「地図帳」50年間で変わったこと 市町村名や色使い、取り上げるテーマなど変化

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――アナログ時代の苦労は?

現在は印刷技術もデジタルになってすべての色が一緒に印刷されて出てきますが、以前のフィルム製版のときは、色ごとに版を印刷して組み合わせていたため、地図原稿が色数分あるので、きっちり版を合わせなければならないという、印刷所の人も大変な技術が必要でした。

もともとはレリーフ(地形)専用の色も含めて8色使用していたので、版も8枚。今にして思えば贅沢な話ですけどね。印刷の色の具合も今はコンピューターで管理できますが、以前は印刷所の現場の職人さんの手加減でハンマーでそれとなく叩いて均等になるように調整していたんです。叩いてているわけではないんでしょうが(笑)。

地図を見比べてみれば、色遣いが全然違うのがわかると思います。今の地図はパステル調の色遣いですが、昔の地図帳ははっきりした色を使っています。これくらい濃度がないと差がつかなかったんです。デジタルに移行したことによって、色遣いの変更やアミかけなどもとてもしやすくなったことは間違いないです。

見くらべて楽しめるポイントは?

東京や大阪などの大都市周辺で言えば埋立地はだいぶ違っていて面白いですね。

1964年の東京湾には、まだ「夢ノ島」(夢の島)として単独の島が載っていますし。また、くらべて変わった点を確認した後に、そこからさらに、歌川広重の『江戸名所百景』にもある「深川十万坪」のように、江戸時代まで埋め立ての歴史をさかのぼって見るのも楽しいですね。

地方では、鉄道路線の新設・延伸やダムの建設がだいぶ増えたことですね。地名も平成の大合併を代表に大きく変わりました。

『1964年と2020年 くらべて楽しむ地図帳』(山川出版社刊・書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

もしかすると、将来的には教科書のデジタル化に伴って印刷物としてなく地図帳がなくなってしまうかもしれないですが、我々のやることは変わらないです。

どこが変わったのかを確認しつつ、その時代の教育に合わせて編集していきますので、古い地図と新しい地図を見くらべる楽しさは今後も尽きないと思います。

地図帳は学生時代に使っていたものが最後という方が多くいらっしゃると思いますが、このように地図帳の中身は毎年変わっていく、まさに生き物です。ぜひこの機会に、新しい地図帳に買い替えていただければと思います(笑)。

松井 秀郎 立正大学地球環境科学部地理学科教授

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まつい ひでお / Hideo Matsui

1950年生まれ。立正大学大学院文学研究科博士課程地理学専攻単位取得退学。文学博士(立正大学)。文部科学省主任教科書調査官(地理、地図)を務めた。
 

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