半導体メーカーに水奪われた「台湾農家」の憂鬱 世界の半導体不足に「干ばつ」という新たな不安
庄正燈さん(55)の慎ましい水田は、全世界で販売されるiPhoneなどにプロセッサーを供給している台湾半導体産業の中枢部の目と鼻の先にある。
庄さんは今、近所のハイテク企業を優先する政策のしわ寄せを受けている。干ばつに苦しむ台湾では、家庭や工場で使う水を確保するため、10万エーカーを超える農地の灌漑(かんがい)が止められているためだ。
当局は農家の逸失利益を補償しているが、庄さんは今年の不作がきっかけで、買い手が別の農家に契約先を切り替えるのではないかと気をもんでいる。そうなれば、収入の落ち込みは何年と続いてもおかしくない。
「政府が金を配るのは農家の口を封じるためだ」。庄さんは干からびた田んぼを見ながら、そう言った。
最先端チップの王者TSMCの足元で…
当局は台湾がこれほど深刻な干ばつに見舞われたことは50年以上なかったとしているが、この干ばつは、台湾という島で巨大な半導体産業を切り回していくことの難しさも浮き彫りにした。現代生活に欠かせないスマートフォンや自動車に対する半導体の供給拠点として、台湾の重要性は高まる一方だ。
半導体メーカーは工場やウエハーの清掃・洗浄に大量の水を使用する。ウエハーとはシリコンを薄くスライスしたもので、これが半導体の原型となる。世界では電子機器への需要が高まり、半導体不足がただでさえ深刻な問題となっている。
そこに台湾の水不足という新たな不安要素が加わったことで、テクノロジー業界の台湾依存、中でも特定の1社に供給を依存している現状に懸念が深まるのは間違いない。その1社とは、台湾積体電路製造(TSMC)だ。
世界の最先端チップの90%以上は、TSMCが台湾で生産している。取引先には、アップル、インテルといった超有名企業がずらり。TSMCは先日、今後3年で1000億ドルの増産投資を行うと発表しており、これにより半導体市場に君臨する同社の存在感はさらに強まる公算が大きい。