半導体メーカーに水奪われた「台湾農家」の憂鬱 世界の半導体不足に「干ばつ」という新たな不安

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TSMCによると、生産に対する干ばつの影響は今のところ出ていない。しかし半導体産業が成長する一方で、台湾の降雨パターンはこれまで以上に不安定化してきており、当局は水不足の回避に四苦八苦する状況が続いている。

台湾政府はここ何カ月と、雲の中に飛行機で化学物質を散布して人工的に雨を降らせる「クラウドシーディング」をダム上空で繰り返している。TSMCが本社を置く新竹市では海水の淡水化施設を建設。比較的降水量が多い北部から同市に水を運ぶパイプラインも敷設した。

産業界にも節水が命じられた。水圧が下げられ、週に2日間の給水停止措置が始まった地域もある。TSMCなどの一部企業は、他の地域からトラックで水を運び入れる対応に踏み出している。

皮肉を通り越して悲劇

中でも大規模に進められている対策が灌漑の停止だ。その影響は18万3000エーカー、台湾で灌漑が行われている農地面積のおよそ5分の1に及ぶ。

「TSMCのような半導体企業で働いている人にとっては痛くもかゆくもないだろう」。新竹市でコメ農家を営む田守喜さん(63)は、そんな不満を口にする。「私ら農家は普通の生活を望んでいるだけなのに」。

台湾水利局の王藝峰副局長はインタビューで政府の対策を擁護。今回の干ばつは極めて深刻で、仮に灌漑が利用可能だったとしても収穫量は大幅に減っていたはずだと語った。限られた水を工場や家庭ではなく農地に配分すれば「共倒れ」になるという理屈だ。

先進国・地域の中でも屈指の降水量を誇る台湾で水不足が起こるとは、皮肉を通り越して悲劇に近い。

台湾の住民が使う水の多くは、夏の台風の降雨によってもたらされる。ところが台風に削られた山の土砂がダムに流入・蓄積し、ダムの貯水能力は徐々に失われていっている。

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