半導体メーカーに水奪われた「台湾農家」の憂鬱

世界の半導体不足に「干ばつ」という新たな不安

年間降水量のばらつきも大きくなってきた。例えば、昨年の雨季には台風が一度も上陸しなかった。1964年以来の出来事だ。台湾は2015年と2004年にも水不足から大規模な灌漑停止を余儀なくされている。

TSMCが新竹市の製造拠点で2019年に使用した水は、同社によると日量6万3000トン。同地域にある2つの貯水池、宝山ダム、宝山第2ダムから供給される水の10%を上回る量だ。

TSMCは同年、製造工程で使用した水の86%以上をリサイクルし、リサイクル量の拡大と新たな対策によって前年比で360万トンもの節水を実現したと発表している。とはいえ、同社が台湾各地の製造拠点で2019年に使用した水が6300万トンだったことを考えると、問題解決にはほど遠い。

「最大の問題」は政府が設定する水道料金が低すぎることだ、と国立成功大学で水利工学を専門とする王筱雯教授は指摘する。台湾の行政院長(首相)は3月、水を大量に使用する1800カ所の工場に対し政府として上乗せ課金の導入を検討する考えを示した。

コメを捨て、半導体を選んだ台湾

台湾南西部は農業の盛んな地域だが、工業の中心地としても存在感を高めている。TSMCが持つ世界最先端の半導体工場も、台湾南部の台南市にある。

台南南部に水を供給する曽文ダムは干上がり、一部は沼地のようになっている。ダムのほとりには「情人公園(ラバーズ・パーク)」という景勝地があるが、今はダムの底が露出して月面のような荒涼とした光景が広がる。政府データによれば、貯水量は能力の約11.6%にまで落ち込んだ。

台南市近くの農村を訪ねると、農家の多くが政府からの補償金に頼る生活に満足していると話した。少なくとも今のところは、という話だ。農家は作付けしていない農地の草取りをしたり、友人とお茶を飲んだり、自転車で遠出したりする日々を過ごしている。

だが、その一方で将来の身の振り方にも頭を悩ませている。台湾の世論は、台湾にとっても世界にとっても、稲作より半導体のほうが重要という結論を下したように見える。天(あるいは少なくとも経済の大きな力)は、農家にそろそろ別の仕事を見つけるようにと宣告しているかのようだ。

「肥料も農薬も値上がりした」とコメ農家の謝財山さん(74)はこぼす。「農家っていうのは本当に最悪の仕事だ」。

(執筆:Raymond Zhong記者、Amy Chang Chien記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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