初心者でも予習は不要!「江戸落語」の楽しみ方 寄席は「晴れた休日の昼間」がオススメなワケ

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(写真:トヨダリョウ)

田中 「そもそも寄席の場合は、演目が決まっていないんですよね?」

正蔵 「はい。ホール等で行われる落語は、決まっている場合がほとんどですが。演芸場でやる寄席は客のノリを見つつ、前の噺家さんが何を話したかによってトリ(一番最後に登場する演者)の人もその場で話を決めていくんですね」

石井 「そうなんですね!!」

田中 「歌舞伎や能狂言なら演目が決まっているけど、落語の寄席はそうじゃないのが醍醐味かな」

正蔵 「トリは、だいたい17~18人の話が終わったあとに、それらと被らないで話すことが求められます。ですから泥棒の話、夫婦の話、子供の話、きつねやたぬきが化ける話、色っぽい話……など相当ネタ数を持っていないと務まらないんです」

石井 「す、すごい」

正蔵 「ましてや演芸ホールの夜の部のトリだと、40人近い落語家が上がった後に何をやるかという世界になってくる。トリをとるには、それだけの器じゃないとダメなんですね。なかには鍛えてやろうなんて先輩がいて、トリの噺家のやりそうな話をあえて前札でやったり。相手の手筋を読み合う詰め将棋のような感じですよ(笑)」

(写真:トヨダリョウ)

十八番といえる持ちネタは大体30〜50

石井 「普通、皆さん、どれぐらいの持ちネタがあるのでしょう……?」

正蔵 「とりあえず真打になるまでに100。そこから増やしていって、多い方だと300〜400。私でも250〜260ぐらいですね。その中で自分のカラーや語り口調との相性で、得意不得意な話も出てきますから、自分の本当の十八番といえる持ちネタは大体30〜50といったところですかね」

田中 「そういう中から、噺家はその日の話を決めていくということですね」

正蔵 「そうですね。でも、そこがまた難しい。以前、ある公演で滑稽話や新作落語が続いたので、私がトリに『芝浜』というしっとりした人情話をしたんです。すると、先輩から『ちょっと来てごらん』と楽屋の外に呼び出されて、『お帰りになるお客様の様子を見てみなさい、多分、今日いらっしゃっている方たちは、この後お買い物をしたり、ご飯を食べに行ったりして、今日は面白かったよね~っていうのを期待なさっていたんじゃないか』と。しっとりした気分にさせてどうするんだって話ですよね」

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