ANAが「元ピーチCEO」を要職に大抜擢した本意

非航空収入「5年で倍増」を託されたアウトロー

なぜ、やっかみを買う井上氏が経営の中枢に引き上げられ、改革の先鋒を担うこととなったのか。その理由をひもとくうえで重要なのが、コロナ前からANAが抱えていた課題と、それに対する片野坂社長の強い危機感だ。

近年、ANAは国際線の成長を中心に、怒涛の勢いで業績を伸ばしてきた。2010年3月期に1兆2283億円だった売上高は、新型コロナ影響のなかった2019年3月期に初めて2兆円を突破。同期には営業利益も1650億円に達し、4期連続で過去最高を更新してきた。

バラ色の成長劇の最中、ANAは課題も抱えていた。航空系ビジネスへの事業ポートフォリオの偏重だ。2019年3月期の売上高のうち、航空需要に連動する主要4事業(航空、航空関連、旅行、商社)が占める比率は99.2%に上る。

目指すは「楽天経済圏」のような複合サービス

これに危機感を募らせてきたのが、2015年就任の片野坂社長だ。同氏はコロナ前から非航空分野における新規事業の確立を掲げてきた。2016年の東洋経済のインタビューでも、「今の世の中はインターネットが出てきて、本当に変化が激しくなった。いちばん怖いのはインターネットで便利になり、人が移動しなくなることだ」と、懸念をこぼしている。

ただANAは結局、非航空事業の具体的な構想を示せないままコロナ禍を迎えてしまった。片野坂社長は2020年10月の会見で「この数年間、中期計画に(マイレージ会員のデータなど)顧客資産(を生かした新規事業創出)を出してきたが、これを形にできなかった」と懺悔している。

2020年12月に開始したQR・バーコード決済「ANAペイ」(記者撮影)

背水の陣に立たされた片野坂社長は、グループの中核に稼ぎ頭の全日空ではなく、ANA Xを据える構造改革を打ち出した。具体的には同社に、IT大手・楽天が築く「楽天経済圏」のような、ユーザーに幅広い商品・サービスを提供するプラットフォームビジネスの構築を委ねる。

この中では、ANAが自前で提供できる航空・旅行のような「非日常」サービスだけでなく、外食や日用品、エンタメなどの領域も念頭に置く。提携企業の拡大で日常生活に根差すサービスまで展開を広げる方針だ。

強力なプラットフォームには、汎用性の高い決済サービスやポイントプログラムがつきもの。ANAも従前からある自社ブランドのクレジットカードに加え、2020年12月には小売店、飲食チェーンなどで使えるQR・バーコード決済「ANAペイ」を開始した。また、マイルの用途も航空券への交換だけでなく、ネット通販などの日常消費シーンへ拡大。2022年には各種決済機能・サービスなどを集約したスマホアプリを公開する。

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