ANAが「元ピーチCEO」を要職に大抜擢した本意 非航空収入「5年で倍増」を託されたアウトロー
決済サービスの利用が拡大すれば、その手数料収入などが増加する。こういった収入を、コロナ禍のようなパンデミックに影響されにくい日常消費領域で積み上げられれば、グループ収益のリスク分散が実現する。ANAはこういった非航空収入を5年後に倍増させ、年間4000億円まで拡大する目標を掲げている。
当然、ANAにとってプラットフォームビジネスは未知の領域。成功へのハードルは低くない。すでに国内外のIT企業などが乱立する同領域で存在感を示すためには差別化も求められる。そこで片野坂社長が白羽の矢を立てたのが、4年前の会見でちぐはぐなやりとりを繰り広げた井上氏だった。
井上氏はピーチで、LCCというANAにとって未知の領域に挑戦してきた。ピーチの就航当初は空港に出張り、利用客の声を自ら拾い上げ独自の戦略を確立。ANA内からも「この経営危機に際し、ピーチでの経験がある井上氏の存在は片野坂社長にとって心強いはずだ」(グループ企業幹部)という声が上がる。
井上氏自身、3月の会見で具体的なサービス内容の展望を「まだ答えられる状況になっていないため、控えたい。(コロナ禍で)消費者のインサイトが大きく変動している中、商品ならびにサービスの展開はなかなかしづらい」と、顧客起点のマーケティングに徹する姿勢をにじませた。
古巣・ピーチをどこまで巻き込めるか
さらに、ANAはプラットフォームの差別化要因となる商材やサービスを創出するべく、4月からグループの旅行会社を「ANAあきんど」という地域創生企業へと業態転換。ANA Xがデジタル領域でプラットフォームを整える一方、ANAあきんどは全国33支店で特産品や滞在型旅行などを発掘し、「ANA経済圏」の特徴を生み出す役割を担う。
今後は井上氏が独立経営を志向する古巣・ピーチを、構想にどこまで巻き込めるかも注目される。ピーチは低運賃なうえ、地方への路線展開も得意だ。既存のピーチ便を旅行商品へ活用するだけでなく、高単価のANA便から主要路線を大胆に移管すれば、これまでANAが「非日常」と決めつけていた航空サービス自体が、日常的な移動手段に近づく可能性もある。
井上氏はピーチとの協力に意欲を示す一方、「ピーチをどう活用するかにいては、これからピーチサイドと話をする」と、一方的な要請では成立しないことを示唆した。
航空一本足打法からの脱却を託された井上氏。外部企業との提携はもちろん、自身が独自経営を根付かせた古巣を巻き込むリーダーシップを示せるか否かも、片野坂社長と二人三脚の改革を占う試金石となりそうだ。
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