「技術に土地勘ない人」が絶対知るべきDXの根本 感情的に判断するのではなく「正しく恐れる」

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政治経済や行政など、社会の仕組みについての基本知識を有していることは、民主主義国家の一員としての責務だ。例えば裁判の必要性、株式とは何か――そういったことを知らずに、選挙において責任ある投票は本来できないはずだ。

同様に、科学技術についての教養を身に付けることは、今や日本の国民としての義務となった。「科学は難しくて」とか「ネットは老人には難しい」と努力放棄できる状況ではない。資源もなく、少子高齢化待ったなしの不利な状況――科学技術に頼るしか道がない国の一員として、それは避けて通れないからだ。

科学技術系の教養番組は少ない

社会の側も科学技術に関する教養を広めるべきだ。テレビでも、内容の善し悪しはあるものの政治経済を扱う教養系バラエティー番組のようなのはまだあるが、科学技術系は少ない。

NHKの特集などで「iPS細胞の最先端」はあっても、「DNAとRNAの違い」や「DNAとタンパク質の関係」、「免疫系の仕組み」といった教養レベルを題材として、皆に知ってもらうような番組はほとんどない。

それどころか、ノーベル賞受賞者への質問に、科学部の記者を差し置いて社会部がしゃしゃり出て、「授賞式での奥様の着物は」と聞くようなマスコミが多いのがわが国である。

そうした教養がないまま、原発事故や新型伝染病など科学的な大事件に触れると、判断基準が理性より感情に傾き、「よくわからないから怖い」とか「うまくいかないのは裏に陰謀があるから」などとなりがちだ。

そして一般の受け止め方もそうだろうと勝手に思い込めば、「視聴者の素朴な感情に沿った番組作り」を錦の御旗に、より感情的な番組作りをしようとして、その線に沿った発言をするコメンテーターが重用される。

いわば視聴者とマスコミの共依存関係で感情の垂れ流しの連鎖が始まり、止められなくなる。素朴な感情的判断を否定するものではないが、とめどない感情の連鎖の危険性は、過去のさまざまな悲劇で十分だろう。

現在の民主主義社会では、できるだけ多くの参加者が、科学技術が関係する問題に、自らの感情を疑い理性的に判断を下せるかどうかに未来がかかっている。ワクチンと副反応、原子力とエネルギー危機や地球環境、農薬や食品添加物と食糧危機――科学と技術が関係するトレードオフには単純な善悪の割り切りはできない。

「私たちは絶滅に差し掛かっているのに、あなたたちが話すのはお金のことと、永遠の経済成長というおとぎ話だけ。何ということなのでしょう!」のように、何かを悪として否定するだけの感情的な言説は、残念なことに単純すぎて機能しない。

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