「購入した後で機能をアップグレードできる」と聞くと、最初は魔術のように思える。
だがよく考えてみると、スマートフォンでは、日常的にやっていることだ。新しいアプリをダウンロードすれば、新しい機能が使えるようになる。
また、ゲームアプリなどでは、「アプリ内課金」というものがある。
アプリのダウンロードと基本機能は無料。そして、追加機能を購入するのは有料という仕組みだ。
ソフトウェアであれば、いちいち修理工場に持っていかなくとも、インターネットを通じてアップデートできる。それはスマートフォンであろうが自動車であろうが、同じことだ。
テスラのビジネスモデルは、自動車版の「アプリ内課金」なのである。
テスラは、最初に高性能なモデルを製造し、つぎに機能を制限したモデルを割引料金で販売するのだ。
そして、購入後のアップグレードという方式を可能にすることによって、低価格モデルを簡単に提供し、それによって売り上げを伸ばすことができる。
ハードとソフトの切り離し
ここまできて、「納得がいかない」と首をひねる方が多いのではないだろうか?
カーナビのアップグレードをインターネット経由でできるのは、わかる。自動運転も、内容は高度だが、ソフトウェアであることに変わりはないから、インターネット経由でアップグレードできるのもわかる。
しかし、バッテリーや暖房シートは、ハードウェアだ。
それらを、なぜインターネットでアップグレードできるのだろう?
この手品の種明かしは、あっけないほど簡単だ。
低価格モデルである「Model S 60」には、高価格モデルである「Model S 75」に搭載されているのと同じバッテリーが、最初から搭載されているのだ。
ただし、ソフトウェアを調整して、その容量を20パーセント落としているのである。
だから、低価格モデルと高価格モデルを生産するために、テスラは、バッテリーパックを2種類作ったり、組み立てラインを2種類用意したりする必要はない。プログラムに数行を付け加えるだけで終わりだ。
ただし、こうしたことができるのは、車のハードウェアとソフトウェアの切り離しを実現できたからだ。
いまの自動車には、ソフトウェアによって制御される部品が多数ある。しかし、システムごとに、ハードとソフトが結びついており、切り離せない。
これでは、上で述べたようなことはできない。
テスラは「モデル3」以降、ハードとソフトの切り離しを実現したのだ。これは、伝統的メーカーよりも6年以上も早かった。そのために、上で述べた「購入後のアップグレード」という新しいビジネスモデルを導入できたのである。
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