日本女性の「パリ好き」の源がハリウッドの必然 住まう人たちの息づかいが伝わるフランス映画
「おい、聞け、アレックス。俺はお前を南に連れて行く。そこで俺たちはもっと幸せになれるはずだ……。パリよりずっといい。パリがお前の面(ツラ)にしたことをみてみろ。あぁクソッタレが。お前がもしわからなくても……ちょっとはわかろうとしてくれ。俺がわかったことを」
浮浪者ダンはアレックスにパリを出ろと説得する。
しかしアレックスはこの一言だけを繰り返す。
“Faut qu’j’retourne sur l’pont……” (橋に戻らなきゃならない)
レオス・カラックス監督の『ポンヌフの恋人』(1991年公開)、ナンテールにある路上生活者の受け入れ施設でのワンシーンだ。
「橋」とはパリの中心、セーヌ川に架かる「Pont Neuf(ポン ヌフ)」のことだ。Pontはフランス語で「橋」、Neufは「新しい」という意味。つまり直訳では「新しい橋」。しかし実際は16〜17世紀に建設された現存するパリで「いちばん古い」橋である。
監督カラックスはこの古くて頑丈な橋が好きでここ10年ずっと、ポンヌフから遠くない場所に住んでいるという。
日本人の身近なパリはアメリカ映画にあった
古くて新しい「パリ」。
「パリ」とはいったい何だろうか?
「好きじゃない人なんているの?」、Netflixで始まったシリーズ「エミリー、パリへ行く」でアメリカ人のエミリーはこう答える。意地悪なフランス人の描写をこれでもかと見せた後だけに「パリ」の絶対的な強さを感じさせる台詞だ。
パリとは言えないがパリから郊外用電車20分ほどで行ける大学院に進学が決まったとき、別に映画の勉強できるんならどこでもいいや、地方都市とか南仏も自然がたくさんあって人も親切そうだし、と思ってはいたがやはりちょっとうれしかった。
日本のように地震がないフランスは、古くからの街並みが随所随所に残り、大都市パリでも100年を超える歴史ある建造物を改修しつつそのままアパートとなっている所も多い。映画館も美術館も新しい街並みも古い街並みも、ここにはある。最初の頃は週末ごとにパリに出向いてはカフェでワイングラスを傾けたりなんかして「映画みたい」と調子に乗っていたのも否めない。
エッフェル塔、凱旋門、ルーブル美術館、美しい石造の建物、そして恋人たちと愛の街。
しかしこれらを深掘りしてみると、とくにアメリカで製作された映画が私たちに植え付けたパリの外見の印象であることに気づく。
ヨーロッパ映画の配給よりもアメリカ配給会社の映画のほうがだんぜん普及している日本ではアメリカの目を通してみる「パリ」が身近なパリである。
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