次世代ワクチン「ホームラン級進化」の衝撃 「効く、安い、手に入れやすい」で世界は一変

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研究チームはこのように手を加えたスパイクで特許を申請したが、世界はこの発明にほとんど注意を払わなかった。MERSは致死性こそ高かったものの、感染力は高くなく、さほど大きな脅威とはならなかったためだ。MERSのヒト感染が初めて確認されてから現在までの死者数は累計で1000人にも満たない。

ところが、2019年末に新型のコロナウイルス「SARS-CoV-2」が現れ、世界に大きな被害を与え始める。マクレラン氏らはすぐさま行動に移り、SARS-CoV-2に合わせた2Pスパイクを設計。その数日後、モデルナがその情報を利用して新型コロナウイルス用のワクチン開発に着手した。

他社もすぐに続いた。アメリカ国内でこれまでに承認されているジョンソン・エンド・ジョンソン、モデルナ、ファイザー/ビオンテックの3つのワクチンはすべて2Pスパイクを利用したものだ。

「2つ」から「6つ」でパワーアップ

マクレラン氏らは2Pスパイクをワクチンメーカーに引き渡すと、タンパク質の研究をさらに深掘りしていった。2つのプロリンでワクチンが改善できたということは、プロリンの数を増やせば、さらなる改善が見込めるに違いない。

「理屈からいって、一段と優れたワクチンを生み出せるはずだった」と現在はテキサス大学オースティン校で准教授を務めているマクレラン氏は言う。

マクレラン氏は昨年3月、同じくテキサス大学に所属する2人の生物学者、イリヤ・フィンケルスタイン氏およびジェニファー・メイナード氏とチームを組み、3つのラボで100種類の新たなスパイクを生成。ビル&メリンダ・ゲイツ財団から資金提供を受けた3人はこれらを1つ1つ試験し、新たなスパイクの中から有望な変更を組み合わせることで、ついに目標にしていた単一のタンパク質をつくり出す。

そのタンパク質には、2Pスパイクの2つのプロリンに加え、さらに別のプロリンが4つ含まれていた。プロリンの数が合計で6つになることから、マクレラン氏はこの新しいスパイクを「HexaPro(ヘキサプロ)」と名づけた(「ヘキサ」は「6」を意味する)。

ヘキサプロの構造は2Pよりもさらに安定しており、熱や有害な化学物質にも強いことがわかっている。こうした頑丈な構造によってワクチンの効果が高まることをマクレラン氏は期待している。

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