次世代ワクチン「ホームラン級進化」の衝撃 「効く、安い、手に入れやすい」で世界は一変

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新型コロナウイルスの場合、免疫システムにとって最適な標的はウイルスの表面を冠のように覆うタンパク質だ。「スパイク」と呼ばれるそのタンパク質は細胞と融合し、ウイルスを細胞内に侵入させる役割を果たしている。

しかし、単にスパイクタンパク質を人間に注射すればよいという話にはならない。なぜなら、スパイクタンパク質は形を変えることがあるからだ。間違った形のスパイクタンパク質を使用すれば、免疫システムから間違った抗体を引き出すことになる。

こうした知見は、新型コロナのパンデミックが発生するだいぶ前から知られていた。2015年には別種のコロナウイルスが現れ、中東呼吸器症候群(MERS)と呼ばれる危険な肺炎を引き起こしていた。当時ダートマス大学ガイゼル医科大学院に所属していた構造生物学者のジェイソン・マクレラン氏は、同僚らとMERSのワクチン開発に乗り出した。

「2P」という名の忘れられた発明

マクレラン氏らはスパイクタンパク質を標的に用いる考えだったが、それにはスパイクタンパク質が形を変えるという事実を考慮する必要があった。スパイクタンパク質は細胞への融合プロセス中に、チューリップのような形状から投げ槍のような形状に変形するからだ。

科学者らはこれら2つの形状を、それぞれプレフュージョン(構造変化前の)構造、ポストフュージョン(構造変化後の)構造のスパイクと呼んでいる。プレフュージョン構造に対する抗体は強い効き目を持つが、ポストフュージョン構造に対する抗体ではウイルスを食い止めることができない。

マクレラン氏らはMERS用ワクチンを作るために標準的な技術を用いたが、結果として出来上がったのは、目的にそぐわないポストフュージョン構造のスパイクばかりだった。

マクラレン氏(写真:lana Panich-Linsman/The New York Times)

その後、同氏らはチューリップのような形をしたプレフュージョン構造にタンパク質をとどめておく方法を見つけ出す。スパイクタンパク質内にある1000を超す構成単位のうち、わずか2つをプロリンと呼ばれる合成物に変えるだけでよかった。

出来上がったスパイク(2つの新たなプロリン分子を持つことから「2P」と呼ばれる)は、狙いどおりにチューリップ状の姿を取る可能性がはるかに高くなった。マクレラン氏らが2Pスパイクをマウスに投与すると、MERSコロナウイルスにかなり感染しにくくなることがわかった。

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