次世代ワクチン「ホームラン級進化」の衝撃 「効く、安い、手に入れやすい」で世界は一変

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チームはさっそくヘキサプロをニューカッスル病ウイルスに付け加えてみた。するとウイルスにはスパイクタンパク質が密生し、その多くが望ましいプレフュージョン構造を有していた。チームはこれを「NDV-HXP-S」と名づけた。ニューカッスル病ウイルス(NDV)とヘキサプロスパイク(HXP-S)を組み合わせた名称だ。

 

新興国が続々と治験入り

PATHは、日ごろ鶏卵でインフルエンザワクチンを製造しているベトナムの工場で数千回分のNDV-HXP-Sを生産するよう手配。同工場から試験用のワクチンがニューヨークに送られてきたのは昨年10月のことだ。マウントサイナイの研究者チームは、NDV-HXP-Sがマウスとハムスターで強力な効き目を発揮することを確かめている。「ただ、人体についてはまだ結論が出ていない」と研究を指揮するピーター・パレーゼ氏は言う。

このワクチンは、さらなるメリットももたらしてくれた。インフルエンザワクチンは1つの卵で1~2回分の量しか生産できないのに対し、NDV-HXP-Sは5~10回分の生産が可能かもしれない。「これにはとても興奮している。ワクチンを安く生産できるようになるからだ」とパレーゼ氏。

次いでPATHは、マウントサイナイのチームとインフルエンザワクチンのメーカーを結びつけた。そして3月15日、ベトナムのワクチン医学生物学研究所がNDV-HXP-Sの治験開始を発表。その1週間後、タイの政府製薬機構がこれに続いた。さらに3月26日には、ブラジルのブタンタン研究所がNDV-HXP-Sの独自治験で当局に許可申請を行う考えを明らかにした。

その一方で、マウントサイナイのチームはメキシコのワクチンメーカー、アビメックス社に点鼻スプレー形式のワクチンとしてライセンスを供与。鼻腔内噴射でワクチンの効果が高まるかどうかを確認するために、アビメックス社が治験を行う予定になっている。

自力生産の可能性をもたらしてくれるNDV-HXP-Sに、これらの国々は光を見いだしているのだ。

そうした中でマクレラン氏は、ヘキサプロよりもさらに優れたバージョン3のスパイクづくりに取りかかっている。「このプロセスに終わりはない」と彼は言う。「配列の数はほぼ無限だ」。

(執筆:Carl Zimmer記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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