ANA元社長が語る希代の財政家・山田方谷の魅力 コロナ危機の今こそ「至誠惻怛」が身に染みる

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――1990 年代の不況で航空需要が激減し、ANAは1999年3月期に営業赤字に転落。2001年3月期までの4期連続で無配が続いていたタイミングで、大橋さんは社長に就任されました。コロナ禍で航空業界がかつてない危機に直面している今こそ、経営者に至誠惻怛の姿勢が大切ですね。

まさしくそうだ。今こそ社員を勇気づけなければならない。至誠惻怛は、勇気づける側の心構えを説いた言葉。おどおどしながら話を聞いている、そういう人を助ける先生のような。だから、勇気づけるほうが至誠惻怛の意味をよく知らなければならない。

――2つめの「義を明らかにして利を計らず」について、方谷は藩政が正しく行われれば、民の利益はおのずとついてくると説きました。これを経営に置き換えると、正しい経営を行っていれば、利益はおのずとついてくる、ということかと思います。現実には、なすべきことの前に利益を考えてしまいがちです。

例えば、全日空の大義とは何なのか。それはモノも人も安心、安全に目的地に運ぶことだろう。それこそが義であり、義を大切にしなければ利益は得られないことを肝に命じていなければならない。

大義があって、それを大切にすることで会社の利を計っていくことが本質だ。それをしないで利益を得られることがあったとしても、長続きしない。

コストカットと同時に義も重んじよ

――経営が厳しい今、コストカットは必要ですが、その際も義を重んじなければならないと。

そのとおり。整備をしっかりする。乗員はちゃんとお客様を安全に運ぶ。それが仕事だということを改めてきちんと考えなければいけない。

――それは3番目の「事の外に立ちて事の内に屈せず」にも言えることですね。大橋さんは社長時代の2002年に国際線からの撤退が俎上に上ったとき、この言葉を引用して国際線からの撤退を阻止しました。

「事の外に立ちて事の内に屈せず」とは、全般を見渡す見識を持ち、大局的立場に立てということ。事の内に屈する、つまり一事にとらわれて、視野を狭くしてはいけないという意味だ。

航空業界で言えば、国際線はいま確かに飛べる状況にはない。でも、これは必ずそのうち回復する。それまでじっと我慢だ。

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