ANA元社長が語る希代の財政家・山田方谷の魅力 コロナ危機の今こそ「至誠惻怛」が身に染みる
――小学校に立っている銅像といえば二宮金次郎なのかと思っていました。
全国どこでも(小学校にあったのは)大抵は二宮金次郎だったろう。しかし、岡山の小学校では山田方谷。私は二宮金次郎のことは知らなかった。
――方谷のことを本格的に学ばれたのは、ずいぶん後になってからだそうですね。
2001 年に ANA の社長に就任して直後くらいだ。ちょうど小泉内閣が発足した頃で、所信表明演説で小泉さんが引用した「米百俵」の小林虎三郎のことが、会食の席で話題になった。
その場にいた1人の女性が「小林虎三郎は偉い人だが、もっと偉い人がいる。それが山田方谷だ」と言い出した。そこで子供の頃の記憶が蘇り、本屋で方谷の書籍をありったけ買い込んで読み漁った。
示唆に富んだ言葉の数々に感銘を受け、それから方谷研究に没頭するようになった。
山田方谷の明言「ベスト3」
――山田方谷は多くの言葉を残しています。ベスト3を挙げるとすれば何ですか。
「至誠惻怛」(しせいそくだつ)、「義を明らかにして利を計らず」、それに「事の外に立ちて事の内に屈せず」だ。
――いずれもANAの経営に携わるうえで座右の銘とされたと。
そうだ。至誠惻怛とは、誠意を尽くし人を思いやる心、悼み、悲しむ心を持って接するという精神だ。社長に就任してすぐ、私は経営トップが社員と直接対話をする「ダイレクトトーク」を始めた。この時に私が強く意識したのが、この至誠惻怛の精神だった。
というのも、経営トップと直接話せる機会を設けても、話が上手い人と下手な人がいる。対話が苦手で、早く終わってほしいという顔をする人もいる。でも、そういう人こそ言いたいことを我慢しているんじゃないかと。いろいろ質問しても、なかなかしゃべらない。でも、そうした人たちに限って、本当に大事なことを考えていたりする。
だからこそ真心を持って、悼み、悲しむ心を持っておかないと、その人たちが浮かばれない。シャイな人がいっぱいいるんだけれど、そういう人を元気づけたいと考えた。