コロナ患者「拒否ではない」民間病院切迫の現実 「病院名公表」に感じる大きな違和感

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命にかかわる患者をみる職場は過酷な労働となりがちだ。とくにコロナの重症患者を引き受けるようなICU(集中治療室)などで夜勤が16時間に及ぶ2交代に置き換わりつつあり、夜勤が長時間化していることが問題となっている。

日本医療労働組合連合会の「2020年度 夜勤実態調査」(看護職員10万3225人、看護要員12万4263人分の調査)によれば、ICU・CCU(冠動脈疾患集中治療室)等での3交代は186病棟、2交代で139病棟になっている。夜勤で働く時間は3交代でおおむね8時間、2交代は同16時間のため、半数に迫る病棟で長時間の夜勤になっている。

夜勤が長時間化するうえ、夜勤に入るシフトの回数も多い。夜勤の回数については、1992年に成立した「看護師等の人材確保の促進に関する法律」の付帯決議で、3交代では月8回以内(2交代夜勤の場合で月4回以内)の努力義務とされ、多くの職場の労使協定でも同様の取り決めとなっている。医労連の調査では、ICU・CCU等で3交代の夜勤を9回以上している職場が37.7%もあり、2交代では月4.5回以上が57.7%にも上っている。長時間夜勤が増えることで、看護師の心身はすり減っていく。

コロナ病棟へ駆り出され、会話もままならない

前述の綾さんの母は介護職を養成する職業訓練校で講師として働いているため、地域の病院や介護施設の状況に詳しい。コロナの影響で看護師も介護職も家族の反対にあって退職が続いているという。病院の収入が大きく落ち込むなかでも、人手不足でもやりくりしてコロナ患者を受け入れている病院もある。一方で、失業して覚悟して介護の世界に転身する人もいる。高卒の就職先として大きな受け皿だった観光業や飲食業の求人が減り、介護職に就こうという若手も増えている。

綾さんの母は、「みんな、必死でやっている。国は罰則を作るのではなく、人の動きを止めてコロナ患者を減らすことを第一に考えてほしい」と強く訴える。

綾さんの過労自殺の労災認定や裁判を支援している北海道医療労働組合の鈴木緑執行委員長も、地域の実情を語る。

「札幌市内のコロナ患者の受け入れ病院では、子どものいない医師が駆り出されて自身も感染するなど厳しい状況です。コロナ患者を受け入れてコロナ病棟ができると、各病棟から看護師が『助勤』に駆り出されるため、各病棟の人手が不足して残業が増えていきます。休憩室は3密を避けるため利用できる人数が決められ、飛沫感染予防で会話もままならず、ストレスはたまっていく一方です」

コロナ患者の受け入れ指定病院でなくても影響を受けることは避けられない。大病院がコロナ患者を受け入れると救急搬送の受け入れを制限するため、近隣の病院が受け入れることになる。ベッドが足りず、各病棟で専門外の診療科の患者を引き受けるストレスも生じている。

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