総合商社は、世界に類例のないビジネスモデル

三井物産・槍田会長×ライフネット生命・出口会長(3)

槍田松瑩(うつだ・しょうえい)
三井物産会長
1943年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業後、三井物産入社。ロンドン支店駐在、日本ユニバック(現日本ユニシス)出向、業務部長などを経て、2002年社長、09年より会長を務める。

出口:今、槍田会長がおっしゃった、変化に対応できるということは、社員のみなさんが世界中の最前線にいて、世の中はしょっちゅう変わるものだということを知っておられるからです。商売をやっているかぎり、必ず作る人と買う人の間に人が入り、その人たちが世界を動かしていく。これは、古今東西共通です。

槍田:売る人と買う人の真ん中にいるということは、変化に敏感でないといけない業種ですからね。そこで磨かれたのだろうと思います。

――日本のほかのあらゆる業態が、なかなか新しいモデルへシフトできない中で、独特の業態である商社だけが、ここまでうまくシフトできたということに、いろいろなヒントがある気がします。

槍田:確かに商社は日本にしかないビジネスモデルですね。日本は島国だったこともあり、貿易を専門とするビジネスモデルが育つ土壌があったから、海外展開が早かった。海外展開をすると、いろいろな変化に直面します。体制が変わる、革命が起こる、法律が変わる。いろいろなことをしょっちゅう経験してきましたから、柔軟性の鍛えられ方が違ったのでしょうね。

よく「どうしてこんな日本にしかないモデルがやっていけるのか」と聞かれます。普通、日本にしかないモデルというと、ほかの国ではいらないんだから、日本でもいらなくなるのが当たり前ですよね。だけれどもそうならずに、きちんと仕事ができているというのは、なかなか面白いことですね。

――そういう意味では商社マンという立場自体が、世界のいろいろな動きを敏感に感じて、新時代の教養人になるようないちばんのポジションなのかもしれません。ちょっと褒めすぎですか(笑)。

槍田:いろいろなことを体験できるし、いつもいちばんリスクにさらされるところで仕事をしていることは間違いないでしょうね(笑)。人間はリスクにさらされれば、否応なしに考えたり勉強したりしますから。

出口:修羅場を積んだ人ほど強いと言いますが、世界中で修羅場を積んでいらっしゃるわけですから、こんなことを言ったら生意気ですけれど、人を鍛えるにはすごくいい環境でしょうね。

修羅場での判断力を支えるのも、教養

――槍田会長が商社マン人生の中で、「これは自分の修羅場だったな」とか、「自分の足腰を鍛えるのに役立ったな」と思える経験はどういう経験ですか。数えきれないと思いますが。

槍田:それはもう忘れられないのは、やっぱり「事件」ですよね。

私はもともと前社長の引責辞任で登場してきた社長なのに、社長に就任してから2年後の2004年にまた事件が起きた。排ガス規制に関するデータを捏造して認可を得たディーゼル排気微粒子除去装置を、2万1500台も売ってしまったことが判明したのです。

僕はそのとき引責辞任を考えたけれど、この事件の始末はつけなければいけない。しかし始末をつけるためと言いながら社長にとどまるという姿勢が外からどう見られるか、ということも考えたり、葛藤しました。

でもやっぱり経営をしている以上は、それこそ1000万人から非難されてもやらなければいけない仕事があるだろう、というのが最終結論でした。「お前、やっぱり居座りたいから居座っているんだろう」という非難があっても、2万1500台を回収しないことには収まらない。最終的に、すべて後始末に2年もかかりましたが、あのときはかなり悩みましたね。そういうときも、過去に読んだ本とか、ほかの人の生きざまなどが参考になりました。

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