風力発電の設置拡大政策に立ちふさがる高い壁 地域紛争が増加、自然保護など課題が多い

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また、日本自然保護協会、日本野鳥の会などの環境団体は、「出力規模よりも立地が環境影響の有無を左右する。例えば渡り鳥の通り道や、繁殖地と採食地の間などは悪影響が起きやすい。こうした場所を避けることは、事業者にとってもメリットがある」として、あらかじめ立地場所について検討し配慮するゾーニングの重要性を強調。検討会では、専門家から「ゾーニングをより積極的に位置づけた制度が必要」との指摘があった。

再生可能エネルギー導入をめぐる全国各地の紛争事例に詳しい錦澤滋雄・東京工業大学准教授は「事業者から事業計画の提示を受けてからチェックするのではどうしても後手に回る。事前に自治体がゾーニングをして、例えばここは風車の建設をしてはまずい場所である、あるいは適していると把握できていれば、事業計画のチェックをスムーズに進めていくことができる。事業者としても、計画段階で適地に促されるなど事業を進めやすい」と話している。

規模要件緩和で自治体の担う役割が増す

風力発電についての国の環境アセス制度上の規模要件は緩和されることになった。ただし、都道府県など多くの自治体は国の制度を補完する形で環境アセス条例を設けており、自治体が担う役割は増えそうだ。

検討会では環境アセス制度そのものの改善を求める声も上がった。事業者が環境への影響を予測し、評価する現在の制度では、事業者によっては、環境影響評価書などの文書のダウンロードやプリントアウトをできなくしていたり、縦覧期間が過ぎると非公開にしたりするケースがある。これに対し、「アセス関連の文書を縦覧期間後もホームページから削除しないでほしい」と求める声は根強い。

また、事業者の努力義務となっている事業開始後の調査についても、「広く公開されれば、研究者、行政、住民が共有し、今後の環境への影響を減らすために活用していける」との指摘がある。検討会で複数の専門家がこの点を強調し、日本風力発電協会は「情報公開を進める方向で積極的に検討したい」と約束した。規制緩和をめぐる議論が制度の改善につながっていく可能性もある。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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