「高齢社員を教育係にした」ある会社の大失態 「定年70歳」時代に企業が直面する不利益の正体

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つまり、人事部門は、高齢社員に焦点を絞って対策を取るというより、年齢に関係なく全社的に賃金制度や働き方を改革しようとしているようです。

では、賃金制度を変更し、職務を明確にすれば一件落着でしょうか。そうではありません。高齢社員のモチベーション低下が新たに問題になります。

職能給から職務給・成果給に変わると、年功序列で高待遇だった高齢社員はたいてい大幅な年収減になります。企業側が「全社的な制度変更であって、別に高齢社員を狙い撃ちするわけではない」と説明しても、高齢社員は納得できません。

近年、職場環境や働き方の変化などで、前途有望な若い世代でもモチベーションを維持するのは難しくなっています。まして賃金を引き下げられ、先も見えている高齢社員が前向きに働くというのは、極めて困難なことです。

モチベーション維持のためにやってはいけないこと

高齢社員のモチベーションを上げる秘策はありませんが、絶対にやってはいけないことはあります。それは、高齢社員のプライドを尊重して不相応な仕事・役割を任せることです。

働く人のモチベーションは、「環境」「仕事」「評価」「報酬」という4つの要因によって決まると言われます。「評価」「報酬」で高齢社員のモチベーションを上げるのが難しいことから、経営者・人事部門は「仕事」で対応をしようと考えることがあります。

ある部品メーカーは、2年前、高齢社員に各職場で若手・中堅社員の教育係を担ってもらうことにしました。高齢社員は、培ったスキル・経験を活かして会社の将来を担う若い人材を育てるということを意気に感じ、熱心に若手・中堅社員を指導しました。

ところが、教わった若手・中堅社員からは「知識・情報が古すぎて、実務に役立たない」「昔話・自慢話が多く、聞くのが苦痛」「世代ギャップが大きすぎて会話が成り立たない」といった不満の声が人事部に殺到しました。結局、人事部は高齢社員を教育係にするという方針をわずか5ヵ月で撤回しました。

今回のヒアリングでも、高齢社員のモチベーションや活用については、絶望的な声が聞かれました。

「当社でも試行錯誤しましたが、高齢社員の活用は無理だなと思うようになっています。職場のメンバーへの悪影響を考えると、スキルが低い高齢社員にはずっと自宅で待機してもらうのが一番かなと。自分が将来そういう立場になると思うと、心境は複雑ですが」(小売り)

高年齢者雇用安定法の改正は、雇用期間が5年伸びるにすぎません。ただ、それが賃金制度・働き方・職場運営など、さまざまな改革を日本企業に迫っているのです。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。
Facebook:https://www.facebook.com/takeshi.hioki.10
公式サイト:https://www.hioki-takeshi.com/
 

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