飲み屋に「ランチのノウハウ提供」する深い理由 夜間営業ができない店舗と生産者を繋ぐ仕組み

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プロジェクトのユニークなところは、まず食材にある。

鹿児島県で養殖業を営んで50年以上の、小浜水産グループが育てる「極上カンパチ」は、脂はのっているが臭みはなく、あっさりした上品な旨味を持つという。販売先は東京を始めとする各地だが、現在は軒並み仕入れが止まっている状態で、売れないカンパチでイケスが満杯。将来のための養殖スペースにも困っている。売り上げが前年の4割減に至っているが、政府による持続化給付金の対象が「1カ月の売り上げが前年同月比50%以上減少の事業者」なので補助も受けられないでいるそうだ。

繁盛させる店づくり

スパイスワークスではまず、カンパチの特徴を詳細に聞き取りしたうえで、本業のノウハウを存分に活かし、ランチ業態のパッケージをつくりあげた。

鹿児島県にある、小浜水産のイケス。年間1200トンあった極上カンパチの出荷が激減し、売り上げは4割減に。イケスが空かず、将来のための養殖にも差し支えている(写真:小浜水産)

同社のプロデュース業の特徴は「繁盛させる店づくり」にあり、メニュー、内装、販促品、動線、接客、業績など、飲食業に関わるあらゆる要素をバランスよく組み上げてパッケージとして提供する。その中には、事業を継続するための売り上げ目標まで含まれている。

1つの業態を完成させるまでにはオーナーと何度も打ち合わせを行う。そうして開業した店舗はさまざまな業態にわたるが、同社にとって「のれん分けした店」のようなものだという。それら手掛けた店舗のことを同社では「のれん会」と呼んでいる。

小浜水産プロジェクトについては、スパイスワークスがカンパチを買い取り。導入店と結ぶのは食材取引契約という形になり、条件はカンパチを仕入れてもらうだけだ。ノボリやメニューシートなどの販促品はデータでスパイスワークスが提供。食材の配送も、スパイスワークスが独自のルートを利用して行っているので、店舗側が負担するのはカンパチの原価と配送料のみだ。同社が計算したモデルケースでは、売り上げのうち食材と配送料に約50%、包材などに3%がかかり、残りの47%が店側の利益になるそうだ。

ちなみに先述のカイフォルニアのランチ売り上げ5万円は分水嶺で、店側がランチだけで利益を得るにはこれ以上の売り上げを出さなければならない。同店では実際には、昼飲みや夜のメニューにもカンパチを使った料理を提供しているので、小浜水産プロジェクトを導入したメリットは享受できていることになる。

小浜水産プロジェクトは現在、スパイスワークス自身が運営する直営店で2店舗、「のれん会」店1店舗で導入されている。そのほか、15~16件ほど話が進んでいる店舗があるそうだ。

およそ10年前の東日本大震災、そして今回の新型コロナ。危機に臨んで必ず生まれるのが、「困っている人のために何かをしたい」という純粋な思いをエネルギーとした、新たなアイデアやサービスだ。そして消費者は、こうした社会的に意義のある事業を素直に支持し、応援する。今、社会は変わりつつあると、そのように思える。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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