世界金融危機とは真逆になった米中コロナ対策 超積極的な米と慎重な中が招く「元高ドル安」
新型コロナウイルス禍の経済的打撃に対し、米国と中国は相異なる経済政策を講じている。世界的な金融危機からの回復過程で米中がそれぞれ果たした役割が逆転した形だ。
北京で開催されている今年の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の重要なポイントの1つは控えめな経済成長目標であり、財政赤字目標と金融政策はいずれも抑え気味とされている。
バイデン大統領が推進する1兆9000億ドル(約207兆円)規模の経済対策が成立すれば、第2弾の大型財政パッケージを用意している米国とは全く対照的だ。
米中の政策の相違が広がることで為替レートに緊張が及んでおり、世界的な資金の流れに変化が生じる可能性もある。こうした状況の一因には、2007-09年の危機から米中が学んだ教訓の違いが挙げられる。
前回の危機からの米景気回復が勢いや安定性を欠いたものだったことから、与党民主党の有力者は「大胆な」刺激策を講じてそれを途中で打ち切らないことが重要であるとの結論を導いた。
金融政策について言えば、「ひるむな」そして「やり遂げるまでストップするな」だと、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は先週のイベントで語った。
中国指導部が得た教訓は異なる。金融危機を受けた信用の大幅拡大は使われることのないインフラやゴーストタウン、過度の生産能力、過剰債務につながった。
中国の場合、新型コロナ感染拡大の早期の封じ込めによって、昨年もそれほど大規模な景気てこ入れ策を必要としなかったこともあるが、習近平国家主席ら指導部は現在、テクノロジー部門の強化や債務リスクの抑制など一段と長期のイニシアチブに焦点を絞り直そうとしている。
元米財務次官(国際問題担当)で、現在はPGIMフィクスト・インカムの世界経済調査責任者を務めるネイサン・シーツ氏は米中について、「おのおのが過去の出来事から1つずつ教訓を得た。立場の入れ替えのようなものだ」と指摘した上で、現行のポリシーミックスでは、人民元高の見通しが「説得力を持つ」ことになると話した。
こうした見解は広く共有され、人民元相場は年末までに1ドル=6.38元(中央値)に上昇すると予想されている。8日午後の香港市場では6.5238元で取引されていた。
米国債利回りはこのところ急上昇したとはいえ、10年物利回りで比較すると米国は中国の半分未満にとどまっている。
HSBCホールディングスのアジア経済調査共同責任者、フレデリック・ニューマン氏(香港在勤)は中国人民銀行(中央銀行)に関し、「米連邦準備制度を含む他の多くの中銀と異なり、資産価格の行き過ぎた上昇の予防にも配慮しながら政策の調整を続けている」と指摘した。
中国が資金流入への取り組みを迫られる一方で、バイデン政権の刺激策と金融当局の超緩和的な姿勢によって米経済の成長が加速し、米国は経常収支の赤字拡大を通じて世界的なドル資金供給を増やすことになる公算が大きい。
モルガン・スタンレー・アジアの元会長で、エール大学の上級講師であるスティーブン・ローチ氏は「米国の財政支援が未知の領域に入り、財政赤字とその結果として国内の貯蓄率、経常収支と貿易収支の赤字に多大な圧力が加わり、主として通貨に影響が生じるだろう」との見方を示した。
他方で、米国の国内総生産(GDP)が急成長すれば、中国経済の展望も押し上げられる。シティグループのグローバル・チーフエコノミスト、キャサリン・マン氏は「米国が機関車として軌道に戻ることになる」と述べた。
原題:Haunted by 2008, China and U.S. Diverge on Stimulus Plans(抜粋)
著者:Chris Anstey、Enda Curran、Rich Miller
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