地方テレビ局が直面する「窮状」と新たな挑戦 宮城民放4局が「ネットサイマル」で得たもの

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ネットサイマルが当たり前の時代になってくると、ローカル局では配信サービス実現のためのインフラ投資、ランニングコストなど、ネット配信時に上乗せされる費用を確保することが難しくなってくる。

そこで将来的には東北地区全体でのムーブメントへとつなげることも視野に入れて、同一県内にある全民放ローカル局に声をかけたのだと阿部氏は明かす。

なんの実績もなく、大きな動きにはできない。だからこそ、まずは仙台の企業が販売する商品のクーポン発行という形での実績を作り、その実績で得られた数字を基に次の計画へとつなげていきたいという将来ビジョンも描いているという。

「われわれ(宮城テレビ)は楽天イーグルスの番組でしたが、他局もグルメ情報や観光名所の風景など、さまざまな発信を行いました。ローカル局でローカル番組を作る場合、伝える先が県民となるため、全国の人に知ってもらうという発想で番組を企画しない。ところが県民は県の中の情報をよく知っているものです。今回の取り組みは、宮城県から外に発信するという新しい考え方をもたらしてくれました」(阿部氏)

配布されたクーポン画面(写真:LivePark)

実際に放映されたLIVE MIYAGI全体の数字に関して、配信を担当したLiveParkの安藤聖泰社長は「ほとんど告知をしていない中で、どのぐらいの人たちがネットサイマルを視聴し、差し替えたCMでクーポンをゲットしてくれるか。その数字を得ることが一番の目的でした」と前置きしたうえで、アクセス数について話した。

LIVE MIYAGI初日となった2月14日の放送では、東日本放送制作のグルメ番組が視聴数793回、宮城テレビの楽天イーグルス関連番組が視聴数1004回を記録(いずれも放映当日のみの再生回数)。当日内の実売数(配布したクーポンを用いた割引通販の売上数)は25。すなわち、1.4%近い視聴者が放映当日にスポンサー関連商品を購入した計算となる。

実証実験から「ビジネスモデル」構築へ

安藤氏は「サイマル配信した番組は、いずれも通販番組ではありません。その中でCMを通じて25例の実売があったのは想定以上でした。差し替えた動画CMは‟売るための映像”ではなく、通常の動画CMでした。そこに割引クーポン配布をつけたら購入してくれる方が1%以上いた。割引クーポンの内容やCMを工夫すれば、スポンサーにとっても、消費者にとってもよい事例を作れると確信しました」と話した。

2月14日の放送で発行されたクーポン数は479枚。番組の視聴者数が2番組で1797人なので、クーポンを獲得した人の割合は実に26%を超える。そのうちの25枚が初日に使われたということだ。

無論、この実験は幅広い視聴者に向けて行われたものではなく、条件が変われば数字に小さくはない揺らぎが出るだろう。しかし、そうしたことを考慮したうえでも「宣伝らしいことを何もしていなかった中では想定以上の数字が出ました」と宮城テレビの阿部氏は喜んだ。

販売を担当する楽天も「一般的な放送番組との連動企画と比較すると、実売につながる確率は高いと評価できます。偶然のCMとの出会いだけで購買につながる確率は通常、かなり低いものです。30秒と60秒のCM、それぞれは異なるクーポンに設定していましたが、60秒CMのほうが購入者が高かったことも今後のノウハウとして生かせる部分だと考えています」と成果について高く評価した。

阿部氏は「今回の数字は‟周囲を動かす”には十分なものだと感じています」と言う。

そんな彼が思い描くのは、東北全体の放送事業者をまとめたプラットフォームを作り、そこでの物流プラットフォームと統合しながら、東北の企業とともに成長していくことだ。

LIVE MIYAGIは実験的な試みではあったが、すでに結果は出た。実証実験の結果をさらに深く分析したうえで、新たなビジネスモデル確立を目指す。事情は多くのローカル局が同様であろう。今回の取り組みは、ローカル各局が生き残りをかけて動き始めるきっかけになっていくかもしれない。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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