レクサスのフラッグシップセダン「LS」。運転を楽しむためのドライバーズカーであり、時に後席の同乗者を送り届けるショーファードリブンとしての役割も担う。言い換えれば、ドライバーの運転操作を素直に反映する躍動的な走りと、極限まで滑らかで車両挙動を安定させた静かな走りの両立がLSには求められている。
現在のLSは2017年10月に登場した5代目で、2020年11月には大幅なマイナーチェンジが行われた。LSの数え方と車名には導入時期や地域によって差が設けられ、北米や欧州では初代からレクサス「LS」だったが、日本では同じボディ構造でバッジ違いの右ハンドル車を長らくトヨタブランドの上級セダン「セルシオ」として販売していた経緯がある。
日本では2005年にレクサスブランドが立ち上がり、翌2006年に通算4代目となるLSが国内向けの初代レクサスLSとして導入された。同時にセルシオは整理され、国内市場では「クラウン」の上位モデルであった4代目「クラウン・マジェスタ」がセルシオのポジションにつく。
静粛性・乗り心地、乗り味、電動化・自動化の3層
「初代LSこそレクサスの原点」とは、レクサスインターナショナル チーフエンジニアにして現LSの開発主査である武藤康史氏の言葉だ。氏は続けて「レクサスでは中長期ビジョンを次の3層構造で目指しています。根底にレクサスDNAとして大切に育んできた高い静粛性と優れた乗り心地の継承があり、中段にレクサス独自の乗り味の確立。そして最上位に電動化と自動化がきます」。
1989年に誕生した初代「LS400」は国内ではセルシオとして販売された。その圧倒的な静粛性と同乗者の身体がぶれない滑らかな乗り心地には、当時、世界中の自動車メーカーが驚いた。また居住性だけでなく、空力性能や動力性能も高かったことから、欧州、北米の自動車メーカーではLSを何台も購入し3万点以上にも及ぶパーツすべてを分解するなど徹底した解析を行った。
2017年に登場した現行LSも高い静粛性と優れた乗り心地を目指した。しかし、開発は困難を極めた。採用したGA-Lプラットフォームは生まれたばかりの大器であること、組み合わせたランフラットタイヤとの整合性を保つことが難しかったことなどから、乗り心地はかためで上下動が大きく、とても滑らかとは言いがたかった。
なかでも「LS500h」(ハイブリッドモデル)のAWD(4輪駆動モデル)は、大きな凹みや段差を通過する際に体感するシートからの突き上げが強く、後席では衝撃音も大きめでクルマ酔いを誘発……。レクサスが大切にしてきた滑らかな走行性能の継承はそう簡単ではなかったのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら