電通を「過去最大赤字」に追い込んだ元凶の正体 なぜ海外の買収先が巨額減損に迫られたのか

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そもそも2013年に買収したイージスは旧来型の代理店だった。実際、イージスを含むヨーロッパ・中東・アフリカ(EMEA)地域はメディアとクリエイティブの収益の割合が大きい。

会社側は減損の対象を海外事業全体としているが、今回減損の判定を行った際にはAPAC、EMEAそして米州という海外のすべての地域ごとに稼ぐ力を測っている。地域ごとの減損損失額は3月に公表される有価証券報告書で明らかになるが、EMEAでの損失が膨らんでいる公算が大きい。

巨額減損を経てもなお、2020年12月末時点では6000億円弱ののれんが残っており、次なる火種となる可能性もある。

「この5年で市場環境が驚くほど変わった」と電通グループ関係者はつぶやく。2010年代前半はネットも含めてメディアの枠を売り買いするビジネスが大きかった。そこから米グーグルの検索広告やソーシャルメディア広告が台頭し、ネット通販の発達で企業と消費者がネット上でつながる場面が激増。そこにコロナ禍が直撃し、デジタルマーケティングの重要性が急速に高まった。結果的にイージスは時代に乗り遅れたと言わざるをえない。

10%超の大規模人員削減を敢行

海外では現在これまで買収してきた160の事業ブランドを6つのブランドに集約する構造改革中だ。この過程で12.5%の人員削減を行う。重複するバックオフィス人員のほか、旧来型の代理店営業の人材が対象になる。その一方でデジタルマーケティング人材の育成を進める。

デジタル転換の中で電通グループが強くアピールするのが、2016年に約1000億円で買収した米データマーケティング会社のマークルだ。買収額はイージスに次ぐ規模だ。同社は広告主が持つ消費者の氏名やメールアドレスを含むIDデータを活用し、そのブランドのファンになってもらうよう広告や販促のターゲティングを行うためのツールを提供する。

コロナ禍で大きく減ったM&Aも再始動させる。「とくにデジタルソリューション領域を中心に、事業の変革にはM&Aは不可欠。件数や事業規模ではなく質を追う。電通グループに参画するメリットを強調して金銭面だけではない条件交渉をしたい」(曽我CFO)。

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