鉄道とクルマ、似て非なる「電動化」の大義名分 技術面で共通点も、鉄道は"適材適所"で判断
欧州の自動車業界は、日本製ハイブリッド車の人気を快く思わず、当初はディーゼル車で対抗する姿勢を明確にした。ところが2015年にフォルクスワーゲンの不正行為が明るみに出たことで、戦略の見直しを余儀なくされた。そこで新たにターゲットに据えたのが電動化であると理解している。
中国については、自動車作りに豊富な経験を持つ欧米日にエンジン車で対抗するより、多くの国で実用化が始まったばかりの電動車で主導権を握るべきという意識が働いているものと思われる。
ここで疑問に感じるのは、国全体での電動化をうたっていることだ。自動車は自宅から目的地までドアtoドアで移動でき、思い立ったらすぐに出発できるという自由さが長所である。その点を尊重した主張とも言えるが、電気自動車とエンジン車とでは得意分野が異なることは反映されていない。
具体的に言えば、低回転でもっとも効率がよい電気モーターは、排気ガスを出さないこともあって都市内の短距離移動に向くのに対し、中回転域での効率が優れるエンジンは、中高速での移動ではさほど環境負荷は高くなく、逆に航続距離の長さというメリットが生かせる。こうした部分には踏み込まず、国全体で電動化を進めるという主張には、人為的な匂いを感じる。
鉄道は柔軟に対応している
その点鉄道は昔から、地域性を反映した対応をしている。国や自治体の政策として電化が推進される場合もあるが、電化や電動車導入は多くの場合事業者の判断であり、列車の本数が少ないなど電化のコストが見合わない場合は非電化としたり、電化していても気動車を運行したりする。
日本に限った話ではない。筆者も数年前、フランスのグルノーブルからリヨンへの移動で乗ったのは、全線電化していたにもかかわらず気動車だった。さらに列車の本数が少ないローカル線では、非電化のままとしている。
そのうえで環境対策として、我が国ではハイブリッド車や蓄電池駆動電車を導入している。しかもJR東日本を例にとれば、満充電での航続距離に限りがある蓄電池駆動電車は烏山線や男鹿線といった短距離路線に使い、ディーゼルエンジンで発電するハイブリッド車は小海線や仙石東北ラインなど長距離路線に投入している。特性を反映した配備である。
そもそもモビリティ、つまり移動のしやすさは移動する人、乗り物を走らせる人の判断が第一であり、企業や国家の戦略を押し付けるべきではないと考えている。
鉄道の電化と自動車の電動化、言葉は似ているが思想には大差がある。ハイブリッド車や蓄電池駆動電車を含めた鉄道の電化は、利用者の快適性向上や地域の環境保全などが主目的としてあり、戦略的な面もある自動車の電動化に対し、社会的、公共的な視点を感じる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら