「数学嫌いの若者」が生みだされ続ける根本原因 小学校時代の算数の教え方がその後を左右する

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2019年に経済産業省のレポート「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」が発表され、前後に経団連も数学を学ぶことの意義を強調している。しかし、一向に目立った動きが見えない背景には、2015年度のTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)でも発表されているように、日本では「数学は嫌いで役に立たない」と思う青少年の割合が極めて高いのである。

この状況は以前からであり、一向に改善されない。だからこそ、あの「ゆとり教育」が導入されてしまったのであり、算数・数学の「好き嫌い」と「役立つ」という点の意識改革は極めて重要な課題である。そこで筆者は、1990年代半ばから精力的に全国の小中高校約200校で出前授業を行ってきた。

出前授業をする目的

筆者の出前授業は、現在の本務校に移ってきてからはだいぶ減ったものの細々と続けている。その特徴は、いわゆるSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校の東京都立戸山高校、山梨県立甲府南高校、静岡県立磐田南高校、あるいは愛媛県立松山東高校(旧制松山中学)のような優秀な高校生を対象にしたもののほか、小中学校や児童養護施設や問題の多い高校などにも手弁当で積極的に訪ねたことである。

背景には、「算数・数学が好き」な生徒をより「好き」にさせるだけでなく、「算数・数学が嫌い」や「恵まれない環境」の生徒に少しでも数学への興味関心をもたせたいという目的があったからである。拙著『AI時代に生きる数学力の鍛え方』では、さまざまな出前授業で生徒から喜んでもらった題材も数多く紹介した。

出前授業と合わせて、教員研修会での講演も積極的にお引き受けしてきた。これも1990年代半ばから約200カ所で行ってきたが、とくに昨年は沖縄県の算数・数学の先生方対象の大きな研修会や長野県の高校の校長先生方を対象の講演会がコロナで中止になったことは、いまだに残念に思う。それは、本稿で述べてきた内容を直接語ることを予定していたからである。

筆者は本務校の定年退職まであと2年となったが、コロナさえ収まれば、出前授業や教員研修会に積極的に出かけたいと思っている。そして、70歳になってからの定年退職後は、前半で紹介したオウムのアレックス君を超える算数犬を、1対1の対応の概念から育てる夢を実現したいと思っている。

芳沢 光雄 数学・数学教育者

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よしざわ みつお / Mitsuo Yoshizawa

1953年東京都生まれ。東京理科大学理学部教授(理学研究科教授)、桜美林大学リベラルアーツ学群教授などを歴任し現在、桜美林大学名誉教授。理学博士。国家公務員採用I種試験専門委員(判断・数的推理分野)、日本数学会評議員、日本数学教育学会理事も歴任。著書に『AI時代に生きる数学力の鍛え方』(東洋経済新報社)、『新体系・大学数学入門(高校数学、中学数学)の教科書(上・下)』(ブルーバックス<講談社>)などがある。数学プロセス (https://sugaku-process.net/)というホームページも運営

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