日経平均3万円到達でも米国株より割高な理由 長期では日米ともに「株価上昇」の可能性が高い

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このように日本株が相対的に優位になっている背景には、新型コロナウイルス感染症の感染者数、重症者数、死亡者数が、絶対数でも総人口対比でも、アメリカより日本のほうが少ないという要因が挙げられるだろう。

しかし、肝心の企業収益はどうだろうか。アメリカのS&P500採用銘柄で見ると、むこう12カ月における1株当たり利益見通し(アナリスト平均値)は、昨年5月の時点では20.1%減益まで予想値が下がっていた(ファクトセット調べ。むこう12カ月とは、基準日の翌月から1年間を指す。たとえば2月15日時点なら2021年3月~2022年2月となる)。

ところが、先週末時点では0.6%減益まで大きく見通しが上方修正されており、近いうちに増益見通しに転じてもおかしくない。一方、日本の東証1部で同様にみると、アナリスト見通しの平均値は昨年7月に27.4%減益まで悪化したあと、予想値の上方修正は続いてはいるものの、先週末時点でまだ14.4%減益が予想されている。

このため、S&P500の予想PER(株価収益率)は、株価が高水準で推移し続けているにもかかわらず、昨年9月の23.4倍でピークアウトし、先週末は22.4倍と下がっている。つまり、株価が上昇しても、それ以上に利益予想値が大きく上方修正されているため、結果として株価の割高感がじわりとではあるが解消に向かいつつある。ところが日本では、TOPIXのPERは上昇基調が止まらない。すなわち、株価上昇を正当化するに十分なほどの企業収益見通しの上方修正が、生じていないと言える。

最近では「日本株が割安だから海外投資家が買い出動している」との説もよく目にする。だが「日本株がアメリカ株より割安に見えるのは、日本の企業収益の相対的な不振によるものであって、劣後して当然だ」ということが実態ではないか。

筆者は、中長期的には世界経済がコロナ禍を徐々に脱却して回復に向かい、それに応じて主要国の株価も上昇する流れだと考えている。その枠組みのなかで、懸念している短期的な株価反落の局面では日本株のほうが、下落率がより高くなる恐れがあると見込む。またその後の中長期的な株高の流れの中では、日米ともに株価は上がるものの、アメリカ株のほうが、上昇率が高いと予想する。

加えて、NT倍率(日経平均株価÷TOPIX)が一時より低下はしたもののいまだに高水準にあることを踏まえると、日本株が相対的に下落するなかでは、日経平均の不振がTOPIX以上に深刻になるのではないかと考えている。

長期投資なら短期調整をあまり気にするべきではない

ここまで自身の見通しを解説してきたが、筆者の情報の受け取り手の方々のなかでは、「短期株価反落」が想定以上に印象に残る方が多いようだ。実際、セミナーなどでは「持ち株を全部売ったほうがよいのでしょうか」という類のご質問をいただくことがよくある。当コラムの読者を含めて、投資家の投資方針や想定する投資期間(保有期間や売買頻度など)の長短はさまざまであり、売買判断も人によって異なってよいところだ。そこに一律に同じコラムで情報発信する者としての難しさを痛感する。

筆者は、読者もよくご存じのように、短期的な株価の上下動をズバズバ当てまくる能力は皆無だ。大きな流れや方向性を示唆することこそが自分の役目だと理解している(ファンダメンタルズ分析者の本分はそういうものだと思う)。短期的な株価反落は、せいぜい1割強程度だと見込んでおり、いわゆる「大暴落」は想定していない。「株価反落局面で大いに儲けよう、あるいは損失をすべて回避しよう」などと欲張らず、現在の株式等の保有をそのまま続ける、あるいはぼちぼち買い下がる程度にとどめ、長期株価上昇を享受すべきだろう。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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