ソニー復活? 3つの挑戦--知られざるビジネス変革[下]
コミック配信のインフラとなっているのは、従来から展開していたゲームソフトの体験版など配信する「プレイステーション・ネットワーク(PSN)」。PSNのアカウント数は国内400万件、世界4000万件と、マイクロソフトなどが展開する同業の類似サービスに比べて格段に多い。
巨大な資産となったユーザーをコミックなど有料コンテンツに誘導し、同時にコンテンツも豊富にすることで新規ユーザーを呼びこむ--。端末の売り切りに終わらず、ソフトを絡めた好循環が生み出せるか。コミック事業はその試金石だ。
依然残る製造業の顔 電池めぐる危機感
ビジネスの形を“敵の敵”との共存モデルに切り変えようと試みるソニー。垂直統合から水平分業へのシフトと言い換えることもできるだろう。だがこの新しい時代においても、従来型の製造業としての経営課題は重く残っている。09年秋に参入を表明した自動車電池が典型だ。
1月、品川本社で開かれたエレキ事業のキックオフミーティング。部長級の社員を集めたこの会議で、吉岡浩副社長は真剣な表情で説いた。「社外だけでなく、社内からも『なぜ今さら車なのか』という声が少なくありません。しかし自動車分野に参入しなければ、最終的には電池事業そのものでコスト競争力を失い、事業撤退に追い込まれるリスクがあるのです。自動車はやるべきだ。これが私たち経営陣の結論です」。
ソニーは91年に世界で初めてリチウムイオン電池を実用化。現在も携帯電話やパソコンなどに幅広く使われており、世界シェア2位を維持している。だがこの先行性は、他社の自動車用リチウムイオン電池が量産段階を迎えれば、あっという間に覆される。ソニーは今、その危機の瀬戸際にある。