騙されやすい人は「相関と因果」をわかってない 科学的思考を身につけることの重要な意義

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実は、この情報だけだとスイッチを押すことで電気がついたとは100%はいえません。相関関係とは「原因と結果ではないかもしれない」関係です。

因果関係とは、確実な「原因と結果の関係」です。相関関係には因果関係が含まれていることはありますが、相関=因果ではありません。でも、人は相関関係を因果関係だと思い込みがちです。

因果関係があることを示すには、観察だけではなく実験や検証が必要なことが多いです。さきほどのスイッチの問題だと、因果関係だというには「壁をはがして電灯とスイッチがつながっていることを確認し、線を切断したら点灯しないことを示す」必要があります。

生命科学の因果関係を示すには?

生命科学の場合はどうやって因果関係を示すのかを少し述べてみます。

私の研究室に参加を希望する学生さんへの試験を例にとりましょう。その試験では、相関関係と因果関係の考え方ができるかどうかを重視します。

例えば、「遺伝子Aをなくしてしまったマウスをつくったとします(遺伝子操作技術で本当につくれます)。そうすると、なぜか別の遺伝子Bが消えて、その後そのマウスは死んでしまいました。その場合、遺伝子Bがなくなることとマウスが死ぬことは因果関係か?」というようなテストです。

あなたはどう考えますか? この問題では、遺伝子の知識は不要です。本質はスイッチ問題と一緒です。

答えは、遺伝子Bがなくなったらマウスが死ぬということは相関関係であって、因果関係、つまり、遺伝子Bがないと死ぬのかはわかりません。

では、どうすれば因果関係なのかどうかがわかるのでしょうか?

そのためには、遺伝子Bをなくしたネズミをつくればよいのです。それで死ねば、遺伝子Bは生存に必須だと結論できます。

もし死ななかったらどういう結論になるでしょうか? その場合、遺伝子Aがなくなると遺伝子Bがなくなるだけではなく、別の何かが起こりマウスが死ぬ、と考えられます。

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この相関関係と因果関係の違いは、日常生活や、ニュースなどで「ん?」と思うことを考えるクセをつけると、自然に身につけられます。

例えば、ある村周辺だけに生えるキノコがあり、それを食べているために髪の毛が薄い人がひとりもいないというニュースがあったとします。しかし、それは相関関係なので、そのキノコが髪の毛に効くのかどうかは、実験してみないとわかりません。ほかにも理由があるのかもしれない。相関関係はとても有用な情報ですが、因果関係ではありません。

どうでしょうか。ここでご説明したことは、科学的思考の一部にすぎません。ぜひ日常の中で、科学的思考を意識してみてください。

吉森 保 細胞学者、大阪大学栄誉教授

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よしもり たもつ / Tamotsu Yoshimori

大阪大学理学部生物学科卒業後、同大学医学研究科中退、私大助手、ドイツ留学ののち、1996年オートファジー研究のパイオニア大隅良典先生(2016年ノーベル生理学・医学賞受賞)が国立基礎生物学研究所にラボを立ち上げたときに助教授として参加。2017年大阪大学栄誉教授。2018年生命機能研究科長。大阪大学大学院生命機能研究科教授、医学系研究科教授。

大阪大学総長顕彰(2012~15年4年連続)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2013年)。日本生化学会・柿内三郎記念賞(2014年)、Clarivate Analytics社Highly Cited Researchers(2014年、2015年、2019年、2020年)。上原賞(2015年)。持田記念学術賞(2017年)。紫綬褒章(2019年)。

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