伝説の銀行マンが「高級店での接待」を避ける訳 「いきなり高級店に行っても警戒されるだけ」

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「ちょっと親しくなると一杯行きましょう、ってことになるよね。そこでいきなり高級店はダメなんだよ。そもそも、一杯やる店は、向こうに選ばせた方がいいんだよ。気安くなったとはいえ、役人はやっぱり警戒するから」

國重に言わせれば、ノンキャリの役人とて、1軒や2軒の馴染みの焼鳥屋くらいは持っているもんだ、と。だから、最初の頃は店は先方に選ばせていたという。

あえて「個室」を取らない理由

國重の芸は細かい。焼鳥屋にしても、向かい合って座るのは距離感が縮まらない。カウンターのように一緒に並んで座った方が親近感が湧くという。なぜカウンターなのか。なぜ横並びで座るのか。

機微に触れる話だけに普通ならば個室と思うのだが……。

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「個室になると人間は必ず構えてしまうんだよね。何か特別な感じがしてしまうから。それが、カウンターで横に並んで話すと、肩が触れ合うような親近感が生まれる。息がかかるほどの近さは、いつの間にか“共犯”に近い関係を醸し出すんだよね。それが、大切なんだよ。“共犯関係”が」

國重によれば、重要な頼みごとや情報は、ほとんどが焼鳥屋のカウンターでやり取りされていたという。もちろん、ノンキャリだけでなく、キャリア官僚を接待することもある。距離を縮めると同時に、キャリア官僚とも近い関係であることは、ノンキャリを安心させる効果もあるという。

また、國重は店での支払い時、絶対に領収書は貰わなかった。相手の心理的な負担になるような、住友銀行名義で領収書を切ることは一度としてしなかった。ノンキャリには國重が自腹で払っていると思わせることも重要だった。

接待した翌日、店が開く前の夕方4時頃、國重は前日呑んだ店に顔を出しては、「すみません。昨日来た住友の國重ですが……、住友銀行で領収書をお願いできますか」と頭を下げて領収書を貰っていたという。ユーモラスな國重ならではのエピソードだ。

児玉 博 ジャーナリスト

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こだま ひろし / Hirosi Kodama

1959年生まれ。ジャーナリスト。大学卒業後、フリーランスとして取材、執筆活動を行う。政界、官界、経済界に幅広い人脈を持ち、月刊「文藝春秋」や「日経ビジネス」などで発表するインサイドレポートにも定評がある。2016年、月刊「文藝春秋」に発表した「堤清二『最後の肉声』」で第47回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞。

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