森発言生んだ「ホモソーシャル社会」の大問題 女性蔑視発言の背景に隠れているものは

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杉田水脈衆院議員の「女性はいくらでもうそをつける」発言、「子どもを産まなかったほうが問題」と言い切った麻生太郎財務大臣。森氏だけの問題ではないのだ。また、自民党議員だけが失言するわけではないし、森氏の言葉に「身近なところでも似た発言を聞いた」とデジャブ感を抱く人もいるだろう。

三浦教授は次のように解説する。「女性を排除するホモソーシャルな組織は、自民党だけではありません。企業にもあるし、労働組合にもある。そうした組織にいる人たちの中にはおそらく、次のように思い込んでいる人がいます。社会の基盤は、夫と妻、子どもたちで構成される家族である。その家族では、夫が働いて家計を背負い、女性は家族のケアを1人で担って、夫に従うものだ。しかし、現実の社会では、ライフスタイルも家族の形も多様です」。

「空気を読むこと」「効率化」の危険性

意思決定の場に女性その他、多様な人たちを加えることは、世界の潮流である。

「歓迎されない発言も入れることが、ダイバーシティです。多様な人が加わって発言することで、多数派の考え方にある盲点に気づけたり、マイノリティの誰かを傷つける結果になっていないか配慮していくことができます」と三浦教授は語る。

そもそも民主主義とは、多様な価値観を持つ人たちが、異なる意見を活発に交わして議論を深めたうえで、できるだけ多くの人が納得する答えを導くものではないのか。結論が出るまで、時間がかかる場合もある。

ところが、森氏が所属するような「ホモソーシャルな社会での男性の意思決定は、一見効率的かもしれませんが、実は危機管理としても問題があり、長期的には革新的ダイナミズムを失わせて、経済的にも非合理的です」と三浦教授は指摘する。

空気を読む人たちと効率重視で物事を進めてきた結果が、多くの人たちを取りこぼし、毎年2万~3万人もの人が自殺する格差社会なのではないか。世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数で153カ国中121位、と下から数えたほうが早い位置ではないか。

コロナ禍のこの1年、政府はさまざまな対策を打ってきたが、多様な人たちの現実へ目配りできていないことを指摘されてきた。特別定額給付金を世帯主にまとめて配ったため、DVに遭っている人がもらうべきお金を受け取れないことがあった。

去年の緊急事態宣言の際は、飲食店に支給した持続化給付金については、申請書類が複雑だったため、すぐに必要なお金をなかなかもらえず困る店主が多かった。今回の宣言下では、国民には会食を控えるよう呼びかけておきながら、会食する議員たちがいた。狭いホモソーシャルな社会にいることが、議員たちの視野を狭めてはいないだろうか。

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