森発言生んだ「ホモソーシャル社会」の大問題 女性蔑視発言の背景に隠れているものは

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ジェンダーギャップ指数で日本より上にいる120の国々には、掛け声だけでなく実際に多様な人たちが活躍している国が多い。コロナの感染拡大を食い止めた、ニュージーランドのアーダーン首相、ドイツのメルケル首相、トランスジェンダーの台湾のデジタル担当政務委員のオードリー・タン氏。

出生率が回復したフランスでは、女性閣僚の比率が2017年時点で52.9%と半数強を占める。やはり出生率を回復させたスウェーデンも、52.2%いる。国際学力到達度調査(PISA)で常に上位に入るフィンランドは、女性閣僚が38.5%で、首相は女性のサンナ・マリン氏で、35歳の若さである。日本はわずか15.8%で、35カ国中30番目だ。

経済界でも差は大きい。ILO(国際労働機関)の調査によると、2018年に世界の管理職に占める女性の割合は、27.1%。アジア太平洋地域でも22.5%いるが、日本はわずか12%にすぎない。フランスでは女性役員が2016年時点で37%もおり、世界平均は約23%。日本はわずか3.4%にとどまる。

「森氏の失言は森氏だけのものではない」

ホモソーシャルなコミュニティがいまだに珍しくないから、政治家たちの「リップサービス」などで差別的な失言が飛び出すのである。しかし、変化の兆しはある。

「失言はくり返されていますが、インターネット上で炎上するなど、社会は変わってきています。意思決定の場にも、異質な人を積極的に入れるよう変わる必要があります。森氏の失言は、森氏だけのものではありません。その発言を聞いて、笑った人たちも同罪です。まずJOCは、女性の理事を早急に4割に増やすべきではないでしょうか」と、三浦教授は言う。

コロナ禍、思うように働けない、思うように人と会えない、遊べない。仕事を失う人たちがいる。家族との確執が大きくなり、暴力を受ける人たちがいる。精神的に参ってしまう人たちがいる。1年近く我慢の時間が続く中で、人々のストレスは大きくなっている。

社会が危機に陥ったときにこそ、政治にきちんと機能して欲しい。それなのに、いつまで政治家たちの時代遅れの差別発言を、聞き続けなければならないのか。彼らにとっては耳障りかもしれないが、「空気を読まない」人たちの言葉にこそ、見落としている現実がある。

政治は、国民の生活をよりよくするために行われるべきである。政治の世界も、もっと積極的に女性などの従来とは異なる価値観、環境にいる人たちを入れて変わるべきときがきている。そして、私たちも今回の森氏発言を個人攻撃に終わらせず、社会を変えるきっかけにするべきなのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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