西浦教授が懸念、ワクチン開始後の「第4波」 中盤戦以降のコロナ禍といかに向き合うか

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――昨年のインタビューでは、異質性(1人ひとりは同質的に行動しないこと)を考慮すれば、集団免疫率(閾値)は教科書的に言われる6割より低いかもしれないとの話がありました。その後研究者の間ではどんな認識になっていますか(集団免疫率や基本再生産数に関しては、「科学が示す『コロナ長期化』という確実な未来」を参照)。

異質性に関する論文のうち1編はその後、アメリカの『サイエンス』誌に掲載され、今では6割でなく5割程度ではないかとされている。ただし、基本再生産数はすでに述べたとおり気温やほかの要因で変動することも覚えておく必要がある。

集団免疫閾値に達しても散発的な感染は続く

集団免疫については、自然な感染拡大にまかせ、いち早くそこに到達するという戦略を採ったとされるブラジル・マナウスやスウェーデンが批判されているが、それには集団免疫そのものや実効再生産数に関する誤解も含まれている。

たとえば、マナウスでは確かに住民の7割5分が感染したのだが、まだ散発的に流行が続いている。これで集団免疫閾値の妥当性を即座に議論するのは早く、とくに、集団生物学を十分に理解していないことに帰することのできる2つの点で誤解がありがちで、飛躍しすぎであることに注意する必要がある。

1点目は、集団免疫閾値とは、流行中の実効再生産数が1を下回る(=新規感染者が減少に転じる)ことにつながる累積免疫保持者の比率であって、1つの流行を通じた累積感染者数の比率ではない。つまり、例えば55%が集団免疫閾値なら、免疫保持者がその割合を超えたところでやっと集団全体で実効再生産数が1を下回って感染者が減りはじめる、ということだ。

他方、1つの流行を通じた累積感染者数については、1人ひとりが同質な接触をする集団の数理モデルから導かれる最終規模方程式を使うと、単純計算で基本再生産数が2.0だと79.7%、2.5だと89.3%になる。このような感染しうるパーセンテージと集団免疫閾値は混同してはならない。

2点目として、たとえマナウスというクローズドな集団で集団免疫閾値に達したとしても、人々は移動するので外から感染者が入ってきたとき、未感染のマナウス住民の間で小規模の集団発生が繰り返される。集団免疫とは、そういった局所の小規模流行を防ぐことを保証しない。

基本再生産数を基にした集団免疫閾値によって感染が収束するというのは、クローズドな集団における大規模流行の話であって、外と開かれたオープンな状況では話は変わってくる。国境を越えた人の移動を前提とすれば、この感染症の流行を本当の意味で収束させるためには1国だけではなく、多くの国において(ワクチン接種による)集団免疫を達成する必要がある。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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