高速鉄道「頓挫」でも懲りない中国のマレー戦略 マラッカ海峡を回避する戦略ルート「東海岸線」

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一時は中国、韓国や日本が受注競争に参戦した高速鉄道計画。それぞれの国がパッケージで輸出すべく、運輸当局者だけでなく、一般市民にも自国の高速鉄道の水準の高さをアピールするため、 クアラルンプール市内で積極的にロードショーを実施したのが目をひいた。

日本は同市中心部にある伊勢丹の店舗内で、JR東日本が新幹線の安全性や定時性を強調するパネルなどとともに、プラレールを使って来場者の目を引く作戦に出た。韓国は、マレーシア国鉄(KTM)のメインターミナルであるKLセントラル駅隣接のショッピングモール内に店舗スペースを借り、長期にわたって同国の高速鉄道、KTXに関する紹介を行った。

中国がKLセントラル駅のコンコースに設置した高速鉄道のPRブース(筆者撮影)

一方、今世紀になって急激に高速鉄道網を広げた中国は、KLセントラル駅のコンコースに大型ポップアップブースを設置し、自国の高速鉄道に関する動画や模型を展示した。

中国はマレーシア国鉄に車両を供給するなどすでに関係は深く、海を挟んで隣国のインドネシアでは高速鉄道の受注に成功している。今回の高速鉄道計画断念は、中国の東南アジア展開に影響を与えそうにも思える。

だが、中国はマレーシアで、別ルートの鉄道開発を着々と進めているのだ。

「抜け道」確保を狙う中国

一般的に「マレー鉄道」と言われるルートは、タイの首都バンコクからシンガポールまで、マレー半島のインド洋側に面する西海岸を通っている。一方、中国はマレーシアの北東側にあるタイ国境から半島を縦断し、最終的にクアラルンプール郊外のマレーシア最大の貿易港クラン港に至るルートの構築を目指している。

マレーシアの輸送需要にはそれほど貢献しないようにも見えるルートだが、これが中国にとっては重要な意味を持つ。

マレー半島東海岸を通る国鉄在来線の中間駅。ローカル線の雰囲気が強い路線だ=2012年(編集部撮影)

中国は中東の原油への依存が高く、その大部分がマラッカ海峡を通過している。だが、有事の際にはシンガポール駐留の米軍が海峡封鎖に動く可能性がある。そうなればエネルギーの供給路が大打撃を受け、一巻の終わりだ。そのため、中国にとってはマラッカ海峡を通らずにインド洋から南シナ海への「抜け道」を確保することが重要な課題なのだ。

前述したルートに沿う新線、東海岸線(ECRL)を敷くプロジェクトはすでに進んでいる。全長640kmで、日本の在来線よりやや狭い線路幅(軌間)1mのマレーシア在来線とは異なり、中国本土と同じ軌間1435mmの標準軌となる。

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