高速鉄道「頓挫」でも懲りない中国のマレー戦略 マラッカ海峡を回避する戦略ルート「東海岸線」

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ただ、2013年の基本合意以降の経過は決して順調ではなかった。これまでにもマレーシア側が財政の悪化への懸念などから凍結を複数回提案し、そのたびに2国間での調整が行われてきた経緯がある。

基本合意から7年が経ち、すでに一部区間では土木工事が進んでいたプロジェクト。一方、導入される車両や運行システムをめぐってはとうとう発注先が未定のまま幕を閉じた。

【プロジェクトの流れ】
2013年2月:両国首脳により、建設に合意。「2020年の開通目指す」
2016年7月:両国の運輸当局者により覚書を締結
2018年5月:プロジェクト凍結を掲げたマハティール元首相(当時)が総選挙に勝利
2018年6月:マハティール前首相「高コストのためプロジェクトは延期」とコメント
2018年9月:前首相「開通は2031年」と明言。一方で両国首脳は2020年5月末までの事業凍結で合意
2020年2月:ムヒディン首相率いる新政権誕生。同年5月末までの凍結期限を同年末まで延長で合意
2020年12月31日:凍結期限最終日
2021年1月1日:両国首脳、事業断念を共同発表

マレーシア政府は、2020年末の高速鉄道プロジェクト凍結期限到来を前に、事業断念を回避すべく、さまざまなコスト削減策を検討した。事業構造や契約で示されたビジネスモデルなどについて改めて精査する一方、欧州や英国、日本、韓国の高速鉄道のビジネスモデルの比較、検討を進めた。また、30%前後のコスト削減を目標に、線路設計や駅所在地にもメスを入れたという。

コロナ禍が断念の決め手に

あらゆる方法を使ってマレーシア政府は事業存続を目指したが、新型コロナウイルスの感染拡大による財政悪化は深刻で、新たなインフラ開発に回せる資金はないと判断した。

こうした背景もあり、12月2日に両国首脳間で行われたテレビ会議の席上、プロジェクト断念で合意。凍結の期限が切れた翌日となる2021年の元日に、両国首脳が正式に計画の断念を発表した。

マレーシアは高速鉄道計画の一方で在来線の近代化・高速化も進めてきた。都市間を走る特急電車(編集部撮影)

事業の中止決定を受け、マレーシア側は補償金をシンガポール側へ支払う義務が発生する。今後、シンガポール政府が金額の詳細を通告し、マレーシア政府が精査するという。

ムスタパ首相府相(経済担当)は補償金額について、「シンガポール側との契約上、開示できない」としているが、2020年5月までの事業凍結が決まった際は、マレーシア側は補償金として1500万シンガポールドルを支払うべきと提示されている。

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